第12話

 リオーネへと、ゆっくり手を伸ばし、サラサラとしている水色の髪を撫でる。


「君はすごいな、リオーネ」


「アーク様……」


「よく負けないで頑張ってくれた────君は、本当に強くて、美しい子だ」


 この際、こんなキザったらしいセリフなんて気にしないで、存分にリオーネのことを褒める。


 後で悶えることは確定だろうが────こんな思い、今までリオーネが受けてきた苦しみを考えれば何ともない。


 後頭部を軽く押しながら、リオーネの体を抱きしめる。


「君は、役たたずなんかじゃない。君がここにいなかったら、おそらく俺はここにいないだろう」


「……っ、そ、そんなことは────」


「いや、そうだ。俺はもっと自暴自棄になって、あの戦場で死んでいただろう」


 これガチね。この世界にリオーネがいるから、俺はここまで生きようと思えてたし、目標が無ければ適当なところで、瘴気に蝕まれて死んでいただろう。


 紛れもなく、俺がまだ生きているのはこの子のおかげなんだ。そんな俺が、彼女にしてあげられることはなんだ?


 褒める?認める?そんなことはいつだって出来る。もっと……もっと根本的な────それこそ、彼女をあのクソハゲから解き放てるようなことを────


「………あ」


「アーク様……?」


「……そうだ、うん。それがいい」


 俺は、どうせ今年の10月には、リオーネを庇って死ぬ。そこで、俺の生きた証は途切れる。


 なら、あるだろう?リオーネをクヴァリの呪縛から解き放ちながら、俺がいたという証拠を残せる方法が────


「リオーネ」


「はい」


「そんなにクヴァリが嫌なら……俺の姓、貰ってくれるか?」


「……アーク様?」


 それは、俺のマーキュリー姓を、リオーネにあげることだ。


 そうすれば、彼女はクヴァリの魔法使いではなくなるので、魔法にしがらみを持つ必要は無くなるし、自由に過ごすことが出来る。


 ────それに、居ないもの扱いをしていたのならば、俺が勝手に貰ってしまっても構わないだろう?


「……あっ、あ、あ、アーク様!?」


 俺の言っていることを理解したのか、急激に顔を赤くさせる────ん?赤く?俺なんかそんな恥ずかしがらせること言ったか?


 俺が考えていたのは、俺の親代わりをしているミオリネさんに、リオーネを俺の義妹として迎えることによって、俺と苗字を同じにさせようと思っていたんだが……。


「そっ、そそそそそそれって……!わ、わたくしを……!つ、つつつつつ妻として……!?」


「…………!?」


 んんんんん!?!?妻ぁ!?俺そんなこと────言ったわ。うわ、待て。傍から聞くと俺の姓上げるはプロポーズですわ。


 え、やばい。どうしよう!俺は、リオーネとそんな関係になるつもりはない。


 確かに、リオーネのことは好きだし、愛してもいる。可能ならばそういう関係になりたいし、めちゃくちゃイチャイチャしたいよ???


 でも、俺は死ぬんだ。死ぬと分かっておきながら、彼女をつがいとし、遺して逝くなんて俺には出来ない。なんならそんな俺に俺が一番許せないし、未練たらたらになるのが目に見えているので、絶対化けてでるぞ俺は。


「う、嬉しい……嬉しいですアーク様……っ」


「…………」


 あ、なんかもういいかな。


 理性の紐が緩くなったような音が、脳で響く。


「私は……私は、アーク様をお慕いしております……どうしようもなく、アーク様のことが好きなのです……」


「リオーネ……」


 ギチギチ、と紐が左右から強く引っ張られ、軋む音が響き、甘く、蕩ける。


「────私を、どうか、あなたのものに」


 理性が、完全に、切れる音がした。














「………………」


 ほげー、とベッドの上で惚けていると閉じられているカーテンから、微かな陽光が目にかかる。


 隣には、先程まで交じりあい、互いに好意をぶつけ合ったリオーネが、幸せそうに寝ていた。


 やッッッッッッッッってしまった!!!!!


 いや、まぁたしかに二重の意味でヤッたが……ってそんなことはどうでもいいねん!!


 うわぁ……うわぁ……マジでどーしよ……これはマジで責任取るしかないんだが……まだ結婚出来ねぇんだよ……。


 ………これから、どうやって俺の運命と向き合っていこう。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

読者の諸君、次はノクターンで会おうでないか


ちなみに言うと、作者はわらべのみかどなので、こんなんじゃねぇわと思う人がいましたら、鼻で笑ってやってください。


それでは、散!!!

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