第11話

 あれから、ライオネル師匠のせいで全く動かなくなってしまったリオーネを、仕方なく俺の部屋まで運んだ。


 リオーネの意識が戻った時は、見慣れぬ部屋にキョロキョロとしていたのだが、俺の部屋だと分かった瞬間に顔を真っ赤にし、縮こまった。何だこの可愛い生き物。


 とりあえず、落ち着かせようと何か暖かなものを用意し、リオーネへと渡す。ちびちびと飲み始めるリオーネは、半分くらい飲み進めた所で口を開いた。


「……聞かないの、ですか」


「何が?」


「あのクs────私の父親の物言いに大してです」


「聞いて欲しいの?」


 彼女が、心の中で特大の闇を抱えていることを俺は前世から知っている。だから、簡単に踏み込まなかったし、知らないフリをしてゆっくりと、心を溶かすように全肯定botとしてリオーネの事を甘やかし続けた。


 家族からは居ないものとして扱われ、役立たず呼ばわり。自身の魔法にかける想いは、全て否定され、押し潰される。


 だが、それでも負けずに、強い芯を持ってここまでリオーネは生きてきた。例え、原作では誰にも理解されなくても、彼女は強く、美しく生きて、そして散った。


 だけど、彼女は理解して欲しかったのだ。自身が見初めた魔法の在り方を。幼き頃に見た、魔法の美しさを────


「聞いて、くださいますか?」


「勿論。君のためなら、何時間でも」












 魔術大帝クヴァリ家。


 人類が、瘴気に脅かされ一つの国として纏まる依然から、活躍してきた魔術一家。


 そこの長女として産まれた私は、幼き頃より活躍を期待されていました。


 強大な魔法を以って、強大な魔物に立ち向かい、殲滅する。威力こそが全て、それがクヴァリ家の方針。


 上の兄も、既にまだ戦場に立つのは早い時期から、クソハゲドブスの隣で活躍をしていた。


「特級魔法を使えるようになれ。そうでないと、お前に存在価値はないと思え」


「────はい、お父様」


 どの兄弟よりも、魔力量が多かった私は、あのクソハゲドブスから直々に、魔法の指導をしてもらっていました。今思えば、齢5歳の私に言う言葉じゃありませんよね?許せません。


 失敗をすれば罵詈雑言を浴びせられる日々、魔力が枯渇し、気絶すれば蹴られて無理矢理意識を覚醒させられる────あ、なんか今思い出してきたら腹が立ってきました。


 そんな日常が続いて半年。私は、育てるべき才能を教えてくれた師匠と出会いました。


 空に浮かぶ無数の魔法陣。降り注ぐ、色とりどりの魔法達。その下で、優雅にタクトを振る女性。


「────綺麗」


 後で知った事なんですけど、あのお方はSランクの方なんだそうです。そりゃあんなに凄い訳です。目を奪われるのも仕方がないですね。


「──どうしたんだい?お嬢ちゃん」


 その日から、あのクソの目を盗みながら中級魔法の効率化の練習をし、同時に並行魔法マルチキャストの練習も。たまに、師匠の元でコツを学びながら過ごしていたある日。


 ────師匠が死んだ、ということを耳に挟んだ。


 本格的に、私のやっていることを認めてくれる人が居なくなった。


 師匠の元で学んでいることをどことなく聞きつけたクヴァリ家では、私の居場所は無くなっていた。兄弟も、使用人ですら、私のことを居ないように扱う。


「貴様に価値なんて何も無い。貴族の面目として、貴様のことは生かしておいてやるが────」


「きゃっ!?」


「────外に出る際は、クヴァリの魔法使いなんて名乗るなよ。役立たずが」


 ですが、そんな私にも手を差し伸べる救いの光はありました。


「最初は疑問に思ったけど────あれだけの数の並行魔法マルチキャストが出来て、威力も申し分ないなら、ぶっちゃけ高威力なんて必要ないよね」


 アーク様、貴方は私がこの言葉にどれほど救われたか、分からないでしょう。ですが、私は確かに救われたのです。


 今までやってきたことが無駄ではなかったと。私のことを、理解してくれる素敵な方がいたのだと。











「────これが、私の今まで歩んできた人生です」


「…………………」


 いやおっっっっっつも!!知ってたけど!!リオーネの過去は相当酷いものだとは前世の頃から知ってたけど!!リアルで聞いたら予想以上に重すぎて思わず黙ってしまった。


 というか、あのクソハゲ。幼い頃のリオーネに何してくれとんじゃコラ。やっぱり今からでも遅くないよね?殺す?殺そう。


「リオーネ」


「……はい」


「とりあえずありがとう。過去を話すのは、辛かっただろう?」


 まずは、自身の過去を包み隠さずに話してくれたリオーネにお礼を。


 そしてここからは、リオーネのことをグズグズに甘やかしまくるターンだ。任せな、今までの事を忘れるくらいに肯定してやるよ。

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