第9話

「どうしましたか?声を粗げて」


「こんのハゲッ……!」


「あ、アーク様!?」


 私でも直接言うのは控えたのに!?と副音声が聞こえそうな声で、リオーネに諌められる。このハゲー!と大声で言わなかっただけ褒めてほしい。


 だってこいつ、うざったらしく聖者呼びしてくるし、本気で俺の事を「大丈夫か?」という顔で心配しているのだ。


 リオーネを馬鹿にして、声を粗げた俺に対してである。


「離せリオーネ。そうじゃないとあいつの顔を殴れん」


「ダメですアーク様!、軍からは頼りにされてる魔法使いです!」


「……………」


 あれ、なんかこの子時々棘放ってない?そのせいか、あのハゲの顔が元々醜かった顔が、どんどん醜くなっていくんだが。


「とにかく、ここは引けリオーネ。一発言ってやらんと気が収まらん」


「ダメです!」


 どうしても俺の右腕を離さないリオーネ。困った。


「出来損ない!あまり聖者殿の傍に近寄るな!」


「でめ゙ぇ゙ごら゙ぁ゙!!」


「アーク様!?」


 二度も侮辱したな!俺の目の前で推しを二度も!


 殺す。絶対に殺す。後のことなんて知らん!コイツは今ここで殺す!


 もう二度と!リオーネに悲しい顔をさせないように!


「ふむ……聖者殿は、そこの出来損ないのことを何故かは分からんが、大切に思っているのですかな?」


「貴様に答える義理はない────それ以上汚い口を開くな。虫唾が走る」


 キリキリ、と右手に持っているミストルティンが、俺の握力によって悲鳴を上げる。


「………聖者殿。あまり言葉遣いがなっていないご様子ですな」


 流石に、先程の言葉にキレたのか、額に青筋を浮かべながらも、冷静になって聞いてくるハゲ。俺はそれに、フリーの左手で奴に向かって中指を立てた。


「𝑭〇𝑪𝑲 𝒀𝑶𝑼。お前のせいだよクソハゲドブス」


「…………」


 本当に言いました!?という顔をするリオーネ。悪いな。リオーネの事を侮辱している辺りから、こいつとは全面戦争するって決めたんだ。


 貴族としての力?魔術大帝としての力?上等だコラ。


 ────あまり、Sランクを無礼なめるなよ。


「………ふぅ、どうやら、聖者殿はそこの出来損ないのことを気に入っている様子ですな」


 冷静であろうとしているのか、首元をしきりに触り始める。そして、にやりとその顔を歪めた。


「ではこうしましょうか聖者殿。そこの出来損ない、あなたの婚約者にでも、性奴隷にでも、なんにでもさせてあげましょうか。その代わり、あなたは私の傘下になってもらいます。それで、先程までの無礼は許しましょう」


「──────は?」


 コイツ、今なんて言った?


 先程のハゲのセリフを聞いて、ぎゅうう、と握る手が強くなるリオーネ。


 俺のとぼけた顔を、了承と見たのか分かりやすく破顔させた。


「出来損ないだが、どうやら聖者殿に気に入ってもらえるくらいには役に立ったか。無駄に顔はいいからな」


「死ね」


 理性の紐がプツンと切れた。


 明らかにリオーネの力が抜けたタイミングで、スルリと腕を抜け出させる。そして、左手の指にはめてある指輪を、ゲイ・ボウへと変化させると同時に、ハゲに詰寄る。


 そして、未だ呑気に笑っている奴の眉間に銃口をピッタリとつけ、そのまま引き金を────


「どわぁぁぁぁ!!お前何してるんだぁぁぁ!!」


 ────引くはずだったが、突如として上へ強く引っ張られる力を感じ、外した。


「ばっか!お前!流石に殺人はやべぇって!」


「ライオネル師匠。どうしてここに?」


「嫌な予感が急にしたから急いで戻ってきたんだよ!」


 ギリギリセーフ!なんて言って浮かせた俺の体をゆっくりとリオーネの隣へ下ろす。


 ライオネル・レオンハート。どっかで紹介したような気もするが、念の為もう一度説明しておくと、俺の三人いる師匠の内の一人だ。


「全く、久々の紹介がこれとはな……勘弁して欲しいぜ……」


「あの、アーク様……この方はまさか……!」


「ん……あぁ……まぁ、そりゃ知ってるか」


 魔法を専門にしている人からすれば、そんな反応になるのも分かる分かる。普段はノンデリだけど、魔法使いからすれば神みたいな人だからな。


「初めまして。知ってると思うけど、俺ライオネル・レオンハート。君はアークの仮パートナー?」


「は、はい!アーク様には、ほんとうにお世話になって……本当に……数え切れないほど助けられて……」


「おーおー。愛されてんねぇ……ぶっちゃけどこまで行ったの?キスぐらいした?」


「ブッ!?」


「おいこらノンデリィ!!」


 言ってるそばからこれだよ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る