第7話

「しかし、二人の武器には何も刻印されてないのな」


 戦闘が始まって、およそ20分。魔物の数も徐々に減り、終わりも見え始めた頃に二人へ問いかけた。


「別に、二人は魔法が使えないわけじゃないんだろ?現に、シアン達は身体強化を使ってるわけだし」


 どんな武器でも、使い手次第でどんな業物にも勝る可能性を持つ魔術刻印。魔力を流すだけで、魔法と同じ効果を発動できる刻印。


 俺たち戦場で戦う隊員にとって、それだけ魔術刻印は必需品である。エリア1程度であれば、普通の武器でも十分に活躍できるが、この先生き残るためには、いつの日か二人の武器にも魔術刻印をする日が来るだろう。


 そんなことを思っていると、二人がじとーとした目で俺を見つめてきた。


「……あのねぇアークくん。君は聖者って呼ばれるくらいには重要人物だし、Sランクだからそんなポンポン魔術刻印出来るけど」


「普通は、武器に刻印するために莫大な費用がかかるんです。貴族ならまだしも、一般人には無理です」


「え、そうなの?」


 いっつも気軽にポンポンしてたけど、あれってお金かかるの!?


 チラッと隣にいるリオーネを見る。意図を理解したのか、こくんと頷いた。


「アーク様は、その銃に何万と刻印されているようですが、普通の人はせいぜい五つほどです。何万も扱えるアーク様や、見ただけで擬似的に魔術刻印を再現できるワーグナーさんが規格外なのです」


「そうだったのか。それは知らなかった……ちなみに、魔術刻印一回するのにかかる費用は?」


「およそ〇〇〇ピーー万ほど」


「ブっ!?」


 たっけぇぇぇ!!!確かに俺はこの世界では金持ちだが、金銭感覚は一般人と変わらない。え、俺そんなポンポン金使ってたの?


 経済回してるわぁ……。


 ちなみに、この世界と地球のお金の単位はちがう。地球感覚で言うと、ロレ〇クスのめちゃくちゃ高い時計と同じくらいの値段である。


 確かに、レイル達が手を出すにはもっと出世が必要だな。


「あ、どうやら終わりなようですね」


 シアンがそう言うと、当たりを覆っている瘴気が晴れていく。見た感じ、二人には怪我は一つも見当たらないし、瘴気を吸い込んだということもなさそうだ。


「そうだ。もし二人がBランクになったら、お祝いとして代わりに魔術刻印してやろうか?」


「「!!」」


 二人が強くなる分には俺は大賛成である。どうせ金なんて、俺が死ぬまでに使い切れないくらいあるし、それだったらこの二人に貢ぐ────貢ぐっていうのもおかしいか。使ってあげた方がいいだろ。


「いいの!?」


「いいんですか!?」


「押しが強いよ君たち」


 目をキラーンと輝かせ、詰め寄ってくる二人の頭に軽くチョップをする。あんまり触れ合うと、またリオーネが拗ねちゃうからな。


「とりあえず帰るぞ。何事も、帰ってからだからな」


 こうして、俺の指導員としての任務は終わり。二人も怪我なしなので、よかったよかった。


 あとの懸念としては、リオーネの親と鉢合わせしないようするだけだな!


「お疲れ様だったな二人とも」


「いえ、二人もかなり成長しているので、そこまで苦労はしなかったです」


「アーク様との訓練の賜物ですね」


 壁の中に入り、待っていたエイリ先生と合流。無事に戻ってきた俺たちを見て、ホッと安堵の表情を見せたのも一瞬だけ。直ぐに、仕事の顔に戻った。


 レイルとシアンの二人は、今日は頑張ったので一足先に学園に戻ってもらった。


「それで、二人から見てあの二人はどうだ?Bランクとしてやっていけそうか?」


「問題ないでしょう。これからも俺が訓練をするので、Aに上がるのも時間の問題かと」


 二人には、俺が死んだあとリオーネの側にいてもらいたいからな。


「分かった。上にも報告しておこう。近日中に、二人に昇格のメッセージが伝わるだろう。今日はありがとう」


「「お疲れ様でした」」


 そう言って、エイリ先生もワープ装置に乗って帰っていく。


「……リオーネも先に帰っていいんだぞ?」


 親と鉢合わせするリスクもあるし。


「いえ、私はアーク様と一緒にいたいので」


「……そっか」


 あのな、リオーネ。気軽にそういうこと言わないでもらえる?ついつい嬉しくなって気持ちが舞い上がっちゃうから。


 全く、ほんっっっっっとうに可愛いぁリオーネは。


「んっ……アーク様?」


「気にしなーい気にしなーい」


 気持ちを抑えきれずに、手持ち無沙汰になった手で、優しくリオーネの頭を撫でる。サラサラな髪を痛まないように手で梳かす。


 はぁーーー。なーんでマーキュリー家はこんな可愛い子を村八分にしていたのか。理解に苦しむよ。

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