第7話

 とりあえず、いつ確認するかは分からないが、リオーネの端末に『気づいたらでいいから、どこにいるかを教えてくれ』とメッセージを送ってから、一人所長室へ向かう。


 施設内を歩いていると、身知った研究員の人達がチラホラと。それに挨拶を返しながら、ミオリネさんが寝落ちしているであろう部屋に辿り着いた。


 ノックを────するかどうか一瞬迷ったが、どうせ寝てるだろうからしなくてもヨシ!と結論付け、扉横の装置にカードキーを読み込ませる。


「入りますよー」


 本当に念の為、声を出しながら部屋へと入る。


 ミオリネさんの所長室────もとい、個人研究室の床には、そこかしこに紙が乱雑している。部屋の真ん中には、めちゃくちゃ大っきい机があり、そこの影からミオリネさんと思わしき足を覗かせていた。


 机には、方眼紙があり、そこには色々な図解や、数式が書かれている。しかし、ほとんどミミズ書きで、なんて書いてあるかは解読不能だ。


 ……これまた、酔った勢いで何か書いて寝落ちしたんだろうなぁ。


「……はぁ」


 思わずため息が出る。とりあえず、いつまで床で寝せるためには行かないので起こすとしよう。要件を早く聞いてリオーネとデートしたいからな。


「ミオリネさーん?起きてくださーい」


「うぅ……マイエンジェルの声が聞こえる……」


 誰がマイエンジェルだ誰が。


 ぐでーっとうつ伏せになり、不明な言語を発するミオリネさん。仰向けにして顔を見ると、少しだけ涙の跡が着いていた。


 ………また逃げられたのか。本当に誰か貰ってくれよ……。


 ボッサボサの赤髪、死んだ目をしながら涙を流す姿はまさにバケモン。それでいてスタイルは抜群。きちんとオシャレをすればめちゃくちゃ美人なのであるが、性格が残念すぎる。それが、ミオリネ・ブランジェという俺の母代わりの人である。


「うぅ……アーク?」


「はいはい。あなたの息子のアークですよー。起きました?」


「………アークゥゥゥゥ!!」


「あぁ……はいはい……」


 閉じていた目が開かれ、俺を視認するとまたもやじわっと涙が溢れて俺に抱きついてきた。


「もうやだ合コンやめたい!」


「じゃあ辞めればいいじゃないですか」


「でも結婚したいぃぃぃ!!」


「オシャレしろよ」


「めんどいもん」


「そういうとこだぞ」


 あと、ミオリネさんの方が面倒臭い。


「とりあえず風呂入ってきてください。酒臭い」


「うぅ……いってきます……」


 なんで俺には素直なんだアンタ。メソメソと備え付けられてあるバスルームに向かうミオリネさんの哀愁漂う背中を見届ける。


 ……最悪、俺が学園生の男を紹介するか?ラグネルとかめちゃくちゃ偏見だけど、年上でダメそうな女性好きそう。


 しばらくすると、髪もろくに乾かさず、下着姿のままミオリネさんが出てくる。本来なら少なからずドキマギするのが思春期男子というものだが、ぶっちゃけ見飽きた。


「はーい、髪乾かすんでこっち来てください」


「ついでに、肩も揉んでくれると助かるよ」


 お、シャワー浴びてアルコールが抜けたか?口調がいつもの感じに戻ってる。


 ドカッ、と惜しみない肉体を隠そうともしないで椅子に座る。俺の方は既にドライヤーを準備しているため、いつでもいける。


「触りますねー」


 一言声をかけ、シャワーを浴びて元気を取り戻した髪を触る。手櫛をしながら、回復作用のある魔法を髪に掛けて保湿。


「ミオリネさん?一応言いますけど、男の前で下着姿になるのはどうかと」


「なに?興奮するの?」


「いえまったくぜんぜん」


「そこは嘘でもすると言いなさいよ」


「うーん、好感度が足りませんねぇ」


「嘘っ。私の事嫌い?」


「嫌いじゃないですよ?ただ、絶望的なまでに、ミオリネさんのことを女性として見れないだけで」


 尊敬と感謝はしている。だがしかし、数多くの醜態を見てしまったから、女性としての好感度はだだ下がりであるが。


「それで、今日はなんのために呼んだんですか?」


 髪を乾かし終わり、クイッと右手の人差し指を曲げると、俺がミオリネさんのための用意したバスローブが、脱衣所から姿を現す。キャッチしたところで、放り投げた。


「わぷっ……そうね、寂しくなったからアークに会いたくて────」


「それじゃ、目的も果たしたんで帰りますねー」


「────あーん、うそうそー。それもだけど、直接耳に入れたい情報もあるのー」


 帰ろうとしたらだらしなく腰にぶら下がってくるミオリネさん。そういうとこやぞ。


「それで?耳に入れたい情報とは?俺、まだデート控えてるんで早く話してください」


「────嘘っ!?デート!?あんな女っ気がなくて悲しき戦闘マシーンとか言われてたアークが!?」


「おいコラ」


 いや、まぁたしかに一時期戦場を駆け回って瘴気を吸い取りまくっていたが、そこまでか?


「誰よ!誰誰?私の知ってる人?それとも学園で会った人?」


「だー!圧が凄い!ちょっと離れてください!」


 ノリが完璧に、『私、実は好きな人がいるんだよねー』って唐突に女友達から言われた女子なんだよ!




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このあとがき欄は作者の雑談スペースとなってます。恐らく、この作品で私を知った人が殆どだと思いますので、今更ですが明示しておきます。

ちくわ大明神

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