第2話

 リオーネにバレないように、全力で下唇を噛んで、表情を出さないようにしていると、何やら悪寒が背中を駆け回る。


「ちょっ……ごめんリオーネ!」


「きゃっ!」


 慌ててリオーネの手を引っ張り、先程出てきたばっかりの俺の部屋へと入れて直ぐにドアを閉める。


「ふんふーん、さて。今日はどんな研究をしようかなー」


 ドアに耳を引っつけて、外の音を警戒していたら、そんな声が聞こえてきた。


 あぶねぇ……このままだったらあのマッドサイエンティストと鉢合わせする所だった。


 ふいー、と安堵して息をゆっくりと吐き出す。すると、控えめながらに胸をトントンと叩かれた。


「あ……あの……アーク様……っ!」


「────あべばっ!?」


 今現在の俺は、リオーネをドアへと押しやり、繋いでいる手はそのままドアに押し付けて壁ドンの亜種状態。更に、彼女の体をすっぽりと覆うように密着している状態だったのである。


「そ、そんな……っ。私達、まだお付き合いしてないのに、こんな積極的に……っ」


「ごっ、ごごごごごめん!」


 バッ!と勢いよく体を離し、繋いでいる手も離して、大きく後ろへと下がる。


 ……リオーネの体、マジで柔らかかったんだが。その感触がまだ残っているような感じがして、心臓が大きく鼓動する。


 こんなー思いはー、はーじめてー。推しとのハプニング密着による衝撃に、体が追いついていない。


「そ、その……ごめん、リオーネ」


「いえ……その、何か事情があるんですよね」


「おう……まぁ、なんというか……合わせたくない人が隣の部屋に住んでて……」


 何されるか本当に分かんないから。


 結局、あの後も五分くらいその場で悶えていた俺とリオーネ。流石に出ないと始業に間に合わないので、少し急ぎ目に部屋を出た。


 ちなみにであるが、手は改めて繋ぎ直してある。行こうとしたら、一瞬リオーネが残念そうな声を漏らしたからな。俺じゃなきゃ見過ごしてたね。


 こういった細かい所作から、俺への好感度の高さが伺える。最高です。俺が今世でやるべき三つの一つ目は殆ど成功していると言っても過言では無い。


 あとは、彼女の口から直接家庭事情を聞くだけで達成だ。


「だーかーらー!来月はこの俺と組んだ方がいいって!」


「おん?」


「あら?」


 人気の少ない道をできるだけ選びながら校舎に急いでいると、急に男の大声が聞こえてきた。


 突然のことに俺とリオーネは足を止めて、キョロキョロと周りを見渡すと────いた。


「いえ、で、ですから!」


「大丈夫だって!俺はランクBだし、なんたって俺の家はネイリー家だから!」


「……勧誘、ですね」


「あまり褒められたものでは無いがな」


 本来であれば、パートナーとなるには共に実力を認め合い、相性がいい相手を見つけなければならないのだが────まぁ、人が沢山いる以上、あぁいった輩は少しばかりいる。


 自身のランクが高いこと。自分の家が貴族だからといって、ランクが低い相手────この場合、異性と強引にパートナーを組む。


「リオーネ。氷、拳大の大きさで」


「はい」


 ここってさ、ファンタジー世界だから原作者の趣味がどうかは知らんが美少女多いんだよね。だから、あぁいった女を性処理の道具としてしか見てないやつが、脅して無理やり手篭めにする。


 もちろん、そういったことは隊務規定違反となり、処罰対象だ。見つけた場合、速やかに報告しなければならない。


 リオーネが魔法で生み出した氷を右手で持ち、右足を一歩だけ下げる。


 左手はまるでグローブを持っているかのように右手を覆い、頭上へと掲げる。


 さぁ、ピッチャー。振りかぶって────


「滅べ」


 ────投げました!


 パァん!


「うおっ!?」


「きゃっ!」


 ストライ~ク!ストレート、およそ190キロ!


 俺が全力でおおきく振りかぶって投げた氷は、不埒ものの鼻先直ぐをギリギリかすめないくらいを飛んでいき、勢いよく壁にぶつかって弾けた。


「誰だ!この俺様の邪魔をしようとする────」


「ほーん?まだそんな態度取るんだ」


「────や……つ……は」


 ホルスターから銃を抜き、男へと構える。


「動くな。強引な勧誘は校則以前に隊務規定違反だ」


「それでは、私は先生への連絡をします」


「頼んだ、リオーネ」


「お、お前は……聖者────」


 パンッ。


「おっと悪い。手が滑った────二度とその名前で呼ぶなよクソ野郎」


「ひ、ヒッ────!」


 うっかり手が滑って引き金を引いて飛び出た弾は、奴のこめかみスレスレを通って、髪を揺らした。


 ま、今入っているのは模擬弾だから、例え当たっても死なないよ。死ぬぐらい痛いけど。


 俺の殺気にあてられたのか、二歩ほど後ろに下がったあと、情けなく尻餅を付いた。戦意喪失ね……こいつ本当にBランクなの?この程度でビビるとか弱くない?


「アーク様。エイリ先生がこちらまで来てくれるそうです」


「ん、了解────そこの君、大丈夫だったか?」



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ジャパンカップ、めちゃくちゃ少数やな。でも、タレントは揃ってるからめちゃくちゃ予想が難しい……

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