第9話
「────あん?」
エリア1を通り過ぎ、エリア2へと差し掛かった時、後方で音が聞こえたと思ったら、少し後ろを主人公くんペアが着いてきていた。
本来、効率よく戦闘を終わらせるために、広い範囲でバラバラになって各隊で魔物を倒すというのが定石なのだが……。
「……着いてきてますね。あの二人」
「だな」
一体どういった意味があるのか。主人公くんの初期装備である無骨なデザインであるただの剣。魔物に着いた血を払うと────俺と確かに目が合った。
「……なるほどな」
「アーク様?」
「リオーネ。彼の異能を知っているか?」
こちらに襲いかかってくる魔物を銃弾で吹き飛ばしながら、リオーネへと問い掛ける。
「いえ、流石にそこまで詳しくは」
「彼の異能は、強化学習体────簡単に言うなら、無限に成長するという能力だ」
強化学習体。主人公くん────ユウラシア・ワーグナー次代の英雄足り得る理由だ。
彼の出自は、ここに来るまではごくごく普通の田舎で生活していたのだが、俺を見つけたように、機関が謎技術でユウラシアの存在を見つけたのが、学園に入学する三ヶ月前の話だ。
彼の異能、強化学習体。詳細を言うなら、学んだことを直ぐさま自分に適応するように現在進行形で身体を作りかえる、という能力だ。ここで、実際どんだけやばいか前世の俺を使いながら例え話をしてみよう。
前世俺は、ごくごく普通の男子中学生だが、めちゃくちゃに足が遅かった。実際どれほど遅かったのかと言うと、50m走あるだろ?あれ、高校入るまで10秒切れなかったんだぜ俺。
まぁそんな運動神経クソザコナメクジな俺なのだが、部活は卓球部に入っていて、二年生の頃から毎日1.5kmを体力作りのために走っていたんだ。
初期のタイムは、まぁなんと無様なもので、確か……8分30秒だったか?そんくらいかかってた。
しかし、ほぼ毎日走っていたおかげで、結果的に三年生に上がる頃には自己ベストタイムは5分45秒で、シャトルランも100回を超えた。
凡人なら、ここまでの努力をしないといけないが、主人公くんは違う。
主人公くんを中二ワイのスペック同等と仮定しても、彼ならば1.5キロ走っている間に、身体を作り替え長距離に適した身体に勝手になっていく。恐らく、次の日には俺の自己ベストなんて軽々こえられるだろう。
そしてさらに、主人公くんには成長限界というものは存在しない。
本当に恐ろしい。一度、彼の鍛錬風景を師匠達とこっそり見学したことがあるのだが、化け物と形容するのに相応しい学習速度だった。
恐らく、主人公くんは今、リアルタイムで俺の事を見て学び、学習し、今まさに急激成長している事なのだろう。
「学習すればするほど知識は増え、本気を出せば出すほど力は増していく────俺を学習教材にしているんだろうさ」
「なるほど。確かに、アーク様は素晴らしいですからね。先生役として抜擢されるのも分かります」
「まぁまだまだ師匠達と比べると全然足元にも及ばな────おっと」
「きゃっ」
前方から、大きな炸裂音とともに、風化した砂嵐がこちらに飛んできた。殺気の類は感じなかったため、砂嵐に背を向ける様にして、リオーネを庇うように立ち、彼女が汚れないように少しこちらに引き寄せてから抱き締める。
背中にペチペチと砂が当たる感覚を感じながら、少し呆然とした感じのリオーネを見る。
……無意識とは言え、俺なんてことしてるんだ!?やっばい!!!意識した瞬間心臓ががががが!!!
「……す!すごい砂嵐でしたね!」
「だ、だな!恐らく、俺ら以外の力自慢のSランク隊員が暴れるんじゃないかな!」
ワタワタと慌てながら抱擁を解いて、リオーネから背を向ける。あーやべー……マジで顔あっちぃ……。
「ちょ!?おい!?ユウ!?何血迷ってんだ!?」
「え?だってアークくんもさっきこうしてパートナー守って……」
「野郎に抱きつかれても嬉しくねぇ!!アレは学習しないでいい!!それと、おめぇの方が身長ちっせぇだろ!」
……助かったわ後方バカ二人。少し落ち着いた。
もう既に推定Sランク力自慢が向こうにいるのなら、俺達はそんなに深くまで潜らなくても良さそうだな。
「リオーネ。俺達はエリア2とエリア3の境界線付近で魔物を狩ろう。邪魔するのも悪いしは」
「え、えぇ……そう、ですわね」
「そ、それと……さっきは気安く触って悪かった」
「い、いえそんな!ちょっとびっくりしただけで!」
「「…………」」
やっべぇ……。前世でろくに女性経験がないから、こういう時どうすればいいかわかんねぇ……。
誰か助けてぇ……と心の中で誰かに助けを求めた瞬間、ふいに俺たちを影が覆った。
「……まっずい!!」
「え、きゃあ!!」
その正体は、既に振り上げられた拳の影。余裕で俺達を潰せる大きさであるため、俺は急いでリオーネの手を掴んで抱き上げ、全力で後方へジャンプした。
ドォォォン!!と土埃と土片が舞い上がり、付近の瘴気も蹴散らしていく。
「あれは………」
「ギガトン級……厄介ですわね……」
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ちな、前世くだりの話は、作者の実話です。
運動神経クソザコナメクジだったの
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