第8話

 その後も、授業もこなしていきお昼の昼食時間となった。


「でっっっっっっ」


「これはなんと……」


 お昼ご飯を食べるために、食堂へとやってきた俺たち。あまりのデカさに思わず入口で立ち止まってしまった。


 俺の反応があからさまにどでかい女性の象徴を見た時のような反応になってしまったが、それも仕方ないだろう。


 いや、マジでデカイな。何人はいるんだこれ……。


「席……座れるでしょうか」


「いや分からん。とりあえず、早いうちに飯を────!」


 学園全体に鳴り響くサイレンが耳に聞こえると同時に、ポケットに入れている端末が激しく振動する。


 このタイミングか!と思いながら端末を操作する。このサイレンは、瘴気が発生し、魔物が登場したことを知らせる音。端末の振動は、戦場に行くことを要請しているものだ。


 リオーネとアイコンタクトを取り、二人で同時に頷くと、走ってもと来た道を戻る。


「簡単に決めておくが、俺が前衛、リオーネが後衛でいいよな?」


「えぇ、前はしっかりと任せます、アーク様」


「任せろ。君のことは、しっかりと守ってみせるよ」


 食堂のワープ装置に辿り着き、端末を翳す。普段だったら色々と手で操作しなければならないが、安全圏外────光の壁の外に近い外周部周辺にへ出撃する時だけは、端末に送られてきた位置情報を元に移動する。


「戦場に出た経験は?」


「何度もあります。アーク様のお背中はしっかりとお守りします」


 ワープが完了し、目の前にはどこまでも伸びる光の壁が。あれは、瘴気の侵入は防ぐが、人の出入りは自由のため、あそこを突っ切って戦場に飛び込む。


 周りには、同じような軍服を着た人が沢山いる。何人いるかは想像つかないが、アニメ基準で考えれば大体三十分程でこの戦闘は終了するだろう。


 そして────


「だ、大丈夫かな……」


「大丈夫だってユウ!俺もいるから心配すんな!」


 ────今、隣にいる主人公くんの仮パートナーである彼が死ぬことになるのである。


「あのお方は……」


「知っているのか?」


 リオーネが主人公くんのことを知っていることに驚き、思わず聞いてしまう。


「えぇ、噂の範疇からは過ぎませんが、なんでもとんでもない可能性を秘めているのだとか」


「まぁ、その認識は間違ってないが────」


 胸ポケットからひし形の物質を取り出す。それを、鼻と口を覆うようにはめれば、一瞬にして顔の下半分を覆う、瘴気遮断マスクに早変わりである。


「今は俺だけに集中してろ」


「えぇ、貴方だけを見ています」


 光の壁を飛び出すと、先程まで見えていた人工の空とは裏腹に、どす黒い雲が空を覆い、雑草一つ生えてもいない痩せた土地へと変わる。


 視界いっぱいには、紫色の煙が空気中を覆い、煙の影から、ゆらりのシルエットが浮かぶ。


「目的地に着くまでは俺が露払いをする。リオーネは温存しておいてくれ」


「かしこまりました」


 ホルスターから愛銃『ミストルティンMkマーク-Vファイブ』を取り出し、すかさずシルエットが見えた空間に銃口を向ける。


「吹き飛べ」


 俺の言葉をトリガーに、銃に刻印されている魔法陣が切り替わる。


 ドンッ!と銃声が鳴り響くと、銃弾は煙をきりばらいながら魔物を蹂躙していく。


「このまま俺たちは濃度3エリアでひたすら魔物を蹴散らす」


 魔物が発生した場合、瘴気濃度エリアというものが大まかに分けられる。


 MAXで3まであり、俺達高ランク者がいかに早くエリア3の魔物を多く倒せるかによって、この戦いは終了する。


 だがしかし、エリア3の魔物は強くてデカいやつが多い。油断すれば、攻撃を喰らってマスクが外れ、動けないまま魔物に貪られるという最悪な即死ルートが待っている。


 油断だけはしない。


 左手の中指にはめている指輪を起動させ、剣を出現させる。


 左側から強烈な殺気が飛び、煙が揺れると同時に狼型の魔物が牙を鋭く輝かせ、俺へと飛びついてくる。


「させません」


 しかし、次の瞬間には狼は全身氷漬けに。リオーネの魔法だ。


「流石」


「いえ、この程度、朝飯前です」










「ユウ」


「どうしたの?」


 時は少し遡り、アークとリオーネが光の壁に飛び込む直前。瘴気戦線の主人公であり、次代の英雄になることを約束付けられているユウ────ユウラシア・ワーグナーの元に、仮パートナーとなったラグネル・ハイドがあちらを見ろと言うように顎で示す。


 彼が示した先には、水色の髪を美しくたなびかせるリオーネと、彼女を先導して走るアークの姿が。


「あれが、ユウと同じSランクの『聖者』、アークさんだ」


「あの人が……」


(僕とは違う、正真正銘のSランク……まだまだ発展途上の僕とは比べ物にならないくらいの……)


「ユウ、俺たちはあの人たちの後ろを少し離れてついて行く」


「うん────え!?いいの!」


「おう。上からもそういう指示が出てんぞ」


 ほれ、と言いながらラグネルは自身の端末を投げ渡す。それをワタワタとしながら受け取ったユウは、本当にそういう指示が出ていたため、目を丸くした。


「あの人は体術、剣術、魔法術と全てが高水準だ────、相応しいだろ?」


「────!うん、そうだね」


 ユウラシア・ワーグナー。潜在能力だけで『人外』認定された、可能性の化け物。


 その異能は、『強化学習体』である。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

主人公くんの真名判明。


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