第5話

 想定外の遭遇により、早くも今日の元気6割くらい持っていかれたような気がする。


 ……部屋、隣なのか。嫌だなぁ……。


 いや、でもあの人俺を見た時『奇跡』と言っていた。そのことから、あの寮では中々出会うことは無いのか……?


「それならば安全────いや、相手はあのアリアナだぞ」


 現人類科学の結晶と言っていい人だ。俺の想像を超えるような手段で来るかもしれないから、用心だけはしておくか。


「はぁ……めんどくさい事になったな」


 初日から艱難辛苦である。


 その後、一年生ゾーンに入るまでは後ろや頭上を気にし、アリアナの襲撃を警戒していたが何も問題はなかった。


 本当に良かった。


 朝早い時間ながらも、ポツポツと俺と同じ軍服を着た生徒達の姿を見掛ける。俺と同じ思考をしたのか、それとも朝早くから訓練をしていたのか知らないが────にしても俺見られすぎじゃね?


「おい……見ろよ」


「あの人が噂の……」


 しかも、なんか口に手を当ててヒソヒソしてるし……どっか格好変だったかな。


 ちらり、と目を横に向け、何かのお店のガラス窓に反射した俺の姿を見る。見た目上は……特に何も問題あるようには見えないが。


 ……まぁいいか。害が無いなら気にしても仕方ないし。気にしないで校舎へと向かおう。


 この学園の校舎は、ビルのようになっており、一年生だけで50クラス存在する。


 最初は『50!?』と数の多さにびっくりしたが、新入生2000人いるしな……。納得した。


 一クラス40人で、1階に五クラスの計10階建て。


 俺が今回所属するクラスは1-27である。前世含め今まで見たことない数字である。


 各階の移動手段は、階段やエレベーターを利用できるが、科学発展した世界あるあるである、『ワープ装置』も利用して移動することが出来る。


 ワープ装置は、この世界では結構ポピュラーで、国の至る所に設置されているし、なんなら出撃するの時もこのワープ装置から発生地点まで一瞬で移動することが出来る。


 エレベーターで行ってもいいが、折角だしワープ装置つかお。今まで何度も使ったことはあるが、これだけはまだちょっと興奮する。


 階数を指定し移動。視界が青白く染まった次の瞬間には目的の6階へと到着。廊下には全然人はいなかった。


 それはそうか。まだ七時なったばっかだし。


 少しだけ廊下を歩き、教室入ったら何して時間潰そーかなーと考えながら扉を開けると────


「────」


「……あら?」


 ────そこには、女神がいた。


 水色の髪の少女は、びっくりしたように紫色の瞳を見開いたが、直ぐに柔和な笑みを浮かべた。


「おはようございます。まさか、こんなに早く人が来るとは思いませんでしたわ」


「……それは、俺も同じセリフだな」


 やっべ。めっちゃ声震えてる気がする。内心めちゃくちゃドキドキしているが、表情を装えているだけ奇跡である。


 こんな展開は知らない。まぁ主人公くんと彼女が同じクラスではないため、知らないのは当たり前だが────少々、予想外過ぎて脳が働かない。


 彼女は、座っていた席を立ち上がり、少しだけ軍政服のスカートの裾を持ち上げる。


わたくし、誇りある魔術大帝『クヴァリ家』の長女であります、リオーネ・クヴァリと申します」


 ふーん。誇りある……ね。そんなの、一ミリも思ってないくせに。


「お隣として、よろしくお願い致しますね。『聖者様』?」


 そして俺は、思いっきりズッコケた。


 そんな俺にびっくりしたのか、パタパタと足を鳴らしてこちらへ駆け寄ってくる気配を感じる。


「だ、大丈夫ですか……?」


「な、なぜ………」


「?」


 俺は、目の前にいるであろう彼女に、床に這いつくばったまま震える手を伸ばす。


「なぜ……その名前を……!」


「……あの……普通に有名だと思いますわよ……?」


「ゆ!?」


 有名!?俺の心に予想外なクリティカルダメージが二hit。アークは沈んだ。


「……大丈夫ですか?」


「全然だいじょばない……心に深い傷を負った……」


 なぜ俺は入学次の日に推しから精神的ダメージを喰らわなければならないのか。


 聖者とは、俺が5歳から12歳まで────アリアナが瘴気遮断マスクを開発するまで、戦場から病院まで駆け回っていた時に付いた二つ名である。


 誰が言い出したのか、その二つ名を知った俺を鍛えた師匠三人衆。


「普通、こういう時って聖女じゃないの?私達の時代にクラスメイトにいたでしょ?」


「いやでも、アーク男だから」


「それじゃあ、女装させましょっか」


 一体どうしてそうなったのか。Sランク三人に子供の俺が勝てるはずなく、無理やり女装させられたり、その格好で無理やり浄化活動をさせられたりと、ものすごく死にたくなった記憶である。


 それで一時期部屋に引きこもり、それを知った機関の人が師匠達にブチ切れ、土下座敢行までさせたのは良かったが、それ以来『聖者』もしくは『聖女』という言葉を聴くとトラウマを思い出すようになったのである。


 今では大分克服したが、こうなるほどに傷は深い。


「……知ってると思うが、アーク・マーキュリーだ。その名前では二度と呼ばないでくれ」


「まぁ、斬新な自己紹介ですね。それではアーク様、よろしくお願い致します」


 俺が伸ばした手を両手で握るリオーネ。うん、知らなかったとはいえ、原因君だからね?


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オハンヨ。いよいよ登場。面白かったら星評価お願いします!

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