第2話

 どどどどどうなんの、ど~なんの~?と頭の中ではてなマークを浮かべながら、とりあえずこちらにはもう背を向けて歩き出した講師らしき人を慌てて追う。


 いや、マジでどうすんの?てかどうなんの俺。何故に学園長から────しかも直々の使命なんだ?


 出会って初っ端から「私に見覚えはないのかね」とか聞かれんのかな。正直に言って見覚えはあります。


「そういえば、自己紹介がまだだったな」


 こちらを一瞥もせずに、唐突に自己紹介が始まった。


「私は、エイリ・シュヴァル。今年度の、お前達のクラスの担任となる」


「は、はぁ……知ってると思いますが、アーク・マーキュリーです……」


 うーん。やっぱ聞き覚えないなこの人。というか担任なの?原作と違うな。どっかでバタフライエフェクト起こしたか?


「あぁ。お前のことはよく知ってる。よく……な」


「えっと……?」


 めちゃくちゃ意味深な感じで言葉切るのやめてくれません?気になるのですが。


 その後は、無言の時間が続く。会話がないということは、先程の意味深な発言については、今は話さないのか、そもそも話すつもりがないのか。


 まじで、初日から原作にない展開くるの辞めてくれないかなぁ。こちとら早く推しと接点を持ちたいと言うのに……。


 二分ほど、エイリ先生の後をついてくついてくしたら、急に立ち止まった。上を見ると、学園長室の札があった。


「学園長。アーク・マーキュリーを連れてきました」


「えっ、ちょっ……!」


 ノックもなしに、ガチャリと扉を開けて入っていくエイリ先生。俺はそれな少々面食らってしまい、行動が遅れ、無情にも扉は閉まってしまう。


「何をしている」


 にゅっ、と先生が扉を開けて顔を覗かせた。


「いや……急に入るからびっくりしたんですよ。ノックぐらいしましょうよ」


「問題ない。学園長からは既にノックはしないで入室していいと許可は貰っている」


「そうすか……」


 こ、この人が分からなすぎるっピ……っ。


 エイリ先生が扉を開けてくれたので、そのままにゅるりと入室する。


 部屋の内装は、あんまり地球の高校中学と変わらないな。めちゃくちゃ高そうなでっかい木の机に、ふっかふかそうな四人は軽く座れそうなソファが、二つ対面に並んでいる。


「おや、来たかね」


 はて、肝心の学園長はどこかね。と思った瞬間、奥の部屋からお盆を持った学園長が。お盆の上には、人数分のコップと急須きゅうすが載せられていた。


 急須、あるんだ。


 それを見たエイリ先生が、はぁと深くため息をついた。


「学園長、それくらいなら私がやります。大人しくしていてください」


「いやいや、そういうわけにもいかないよエイリ。それに、この場ではいつものようにお義父様と呼んでもいいんだよ?」


「仕事中です」


「え"っ"!?」


 思わず変な声が出た。お、親娘……!?この二人が!?


 たまらず、視線をキョロキョロと二人を移動させる。それを見た学園長が笑った。


「ハハハ。積もる話もあるから、座って話をしよう。緑茶は飲めるかな?」








「さて、突然だがアークくん。私に見覚えあるかな」


「んぐっ……」


 異世界に緑茶……?等と思いつつ、学園長が注いでくれたお茶をありがたく飲んでいると、いきなりぶっ込んで来たためむせてしまった。


 いや、マジで聞いてくるんかい……。冗談九割だったのに……。


「大丈夫か?」


「すんません……」


 隣に座っているエイリ先生がハンカチを取り出してくれた。一瞬、女性の物を使うことに少し恥じらいを覚えたが、せっかくの厚意を無駄にはしたくないので、ありがたく受け取って口を拭く。


「洗って返します」


「大丈夫だ。この程度なら、魔法で直ぐに綺麗になる」


 俺の手からハンカチを取ったエイリ先生は、一瞬だけ手に魔法陣を浮かべハンカチを綺麗にした後、またポケットにしまった。


「失礼しました学園長。見覚えは────その、正直あるんですけど、どうにも……」


 見覚えはある。でも、どうして見覚えがあるかマジで分からない。


「まぁ仕方ない。何せ、私と君が出会ったのは11年前だからね。それほど経てば、見た目だって大きく変わる」


「11年前……」


 いや分かるかーい。11年前って俺が五歳の頃やぞ。そんなちっちゃい時の記憶とか、物珍しい異能のせいで国中東奔西走していたことしか覚えてないわ。


 と、なれば俺が異能で瘴気を取り込んだ時に治療した人の誰かか?正直多すぎて検討つかん。


「今にも死にそうだった私を、君は異能を使い、瘴気を浄化してくれた。あれだけ多量に吸い込んだ瘴気を、少しも残さずだ。おかげで、私はまだ生きているよ」


「────あ」


 あ~。思い出した。そういえば、俺が最初に異能を行使することになった『英雄』じゃね?一番最初ということと、瘴気が体の中に入ってくる感覚を知ったことから、この人のことは何となく覚えてるわ。


 たし……かに?鮮明に思い出そうとするとどことなく朧気があるような……?


「ありがとう。今日は、君にこの言葉を言いたくて、君を呼んだんだ」


「私からも、感謝を。お前が学園長を助けていなければ、私はここにいないだろう」


 ………はっはーん?アーク、分かっちゃった。


 これ、多分だけど俺が学園長をあの日助けたことにより、未来がいい方向に変わったんだな。本来ならそもそも、英雄なんて原作アニメには登場しない。


 この世界では、英雄が生きていたから、原作アニメでは登場していない=死亡している人が救われているという形になっているのか。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

みんなぁ……!覚えてくれている人いてぼかぁ嬉しいよ……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る