section1 推しと接近するには

第1話

「君達が、この学園に入学してくれたことをとても有難く思う。魔物との戦いに、怖気付くことなく、勇敢に立ち向かう君たちを────」


 ふむ、校長がアニメで見た時と違う……?というか何かどっかで見たことあるような……。


 一月。16歳を迎える俺達────俺にとっては余命が残り一年ちょいとなる、この世界唯一の学園へ入学することになる。


 対魔物戦線軍属学園。それが、俺が入学する────原作の主な舞台となる学校の名前である。


 はてさて、原作等という言葉が出ていることからわかっている通り、俺こと今世名アーク・マーキュリーは転生者である。


 前世日本人。転生特典特になしな俺は、アニメがオリジナルで、当時リアルタイムで視聴していた『侵蝕戦線』というアニメ内に、ひょんなことから転生した。


 簡単にあらすじを説明するなら、この世界を蝕んでいる『瘴気』を生み出す『魔物』から人類の守護者として戦いつつ、限りある青春を楽しむ……的な感じである。


 世界観がかなりダークなため、普通に登場人物が死ぬ。流石に主人公やヒロインが死ぬことは無かったが、一番最初に主人公と友達になった奴とか四肢爆散して死んだし、主人公の指導員として抜擢された先輩も、主人公庇って死ぬし、何なら講師も死ぬ。


 個人的には面白かった部類には入るのだが、ただ一つ。制作陣に言いたいことがあった。


 それは、俺の推しが劇中で死んでしまう事である────あ、いた。


 校長先生のありがたーい言葉を流しながら、探していた特徴的な水色の髪の女の子を見つけた。


 彼女の名前は『リオーネ・クヴァリ』。アニメでは準レギュラーキャラとして登場。全13話の内、四回登場し、第10話で瘴気で身体が動かなくなったところを魔物に貪られて死ぬ運命シナリオになった少女である。


 リオーネが死んだ10話が彼女のメイン回であり、幼少期の頃の壮絶な過去。それを感じさせず気丈に振る舞う姿勢。死を目の前にしても強気に振る舞うその様は、多くの視聴者を感動させ、魔物に喰われた瞬間、断末魔がそこかしこで響いたという。


 かくいう俺も叫んだ内の一人で、彼女には初めてアニメに出てきた時からの一目惚れだったのだ。一話目から容赦なく人を殺していくので、「死にませんように……っ!」と本気で祈りながら見ていたのだが……まぁ願い叶わずといった所である。次の日の仕事は休んだ。


 俺が、今世でやることは三つ。彼女といい感じに仲良くなる。彼女の過去から人との繋がりを求めている子だと分かっているので、激重感情をぶつけてくれるならなおヨシ!


 二つ、主人公周りの死亡も何とか回避させる。リオーネの死亡回避は当たり前だが、主人公周りも何とかしたい。やっぱり、知り合いが死ぬのって良くないと思うの(小並感)。あと、知っていながら助けられないのは俺の心が病む。


 三つ、リオーネの目の前で盛大に散る。涙ボロボロ流しながら看取られるのが一番いい。どうせ遅くとも二年以内には死ぬ命。死ぬなら推しの腕の中がいい。


 こんな所だろうか。まずは彼女との接点を持つことかな。幸い、同じクラスだから何とかなるだろ────お、主人公君発見。


「………っ」


 おっと、余りにも校長先生の話が長くて欠伸が出てしまった。流石に口を開けて欠伸するのはマズイため、何とか口を閉じながら欠伸を済ませる。


 アニメだったら一瞬でカットなんだけどなぁ……。どの世界でも、やはり校長先生のお話というものは長いものである。


「はぁ……やっと終わった……」


 入学式が行われた講堂を、生徒の波が少し収まり始めたのを確認してから俺も出る。


 さて、今日はこの入学式だけだがどうするかね。生徒の大多数はこの後クラスを把握するために教室へと向かうが……。


 そんなことを思いながら、ふと上を見上げると太陽が見える。魔物が出現していない間だけは、こうして直接太陽の光を浴びることが出来るが、サイレンがなればたちまち、今俺達が住んでいる国────というか、人類生存圏がここしかない────を瞬く間に覆う光の壁が一瞬で展開される。地球にはない超科学力で、魔物が発生させる瘴気を完全にシャットアウト出来るらしい。


「アーク・マーキュリーだな」


「?」


 黄昏ていると、背後から声をかけられる。振り返ると、軍の制服を着た眼鏡をかけた女性が立っていた。


 ……講師、なのだろうか?少なくとも、俺はアニメでこの女性を見た覚えは無い。


 薄ピンク色の髪をハーフアップに纏め、右目の下の泣きボクロが目立つ。更に、軍服スカートにはスリットが入っており、そこから黒タイツを覗かせている。


 端的に言うと、ものすごくエッチな雰囲気を醸し出している妖しいお姉さんである。マジで誰だ?


 絶対アニメに出てたら冒頭の3分でしかも偶にしか出ないのに、男子視聴者からの人気が異様に高いキャラであろうに。


「学園長がお呼びだ。着いてくるように」


「え"っ」


 変な声が出た。


 あれ?俺なんかやらかしたっけ?面接も入試テストも当たり障りない────まぁ異能持ちだから多少は騒がれたが、いきなり重鎮に呼び出されるようなことはしてないぞ?



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皆……俺の事覚えてる?

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