推しの目の前で盛大に散りたい

結月アオバ

上章 前世ブームは激重感情曇らせ

プロローグ

 初めて違和感に気づいた時は、俺が異能を行使している時だった。


 この世界では珍しい異能持ち。しかも、体を徐々に蝕んでいく瘴気を浄化出来るともなれば、子供であっても、治療のために東奔西走するのは当たり前だった。


 瘴気。この世界を蝕み続ける謎の気体。それは、魔物と呼ばれる存在から生み出され、全てを蝕んでいく。


 それは当然、人体にも影響を及ぼし、瘴気を吸えばたちまち体が動かなくなり、細胞が壊死し、呼吸ができなくなり、魔物に貪られて死ぬ。


 運良く帰還できたとしても、体に残る瘴気を抽出する術はなく、体が弱体化するのを感じながら死ぬ。この二択しかない。


 五歳の頃、『英雄』と呼ばれている人物が俺の元に運ばれてきた。魔物との戦闘中に、瘴気を中和させるマスクを外され、瘴気をかなり吸い込んでしまったらしい。


 俺も最初はこの人体に留まる瘴気を、何らかの力で浄化しているものだと思っていたが、明らかに俺の体に入ってくる『不純物の塊』。


 一瞬クラっとしたが、唇を少し噛みちぎって何とか耐え、何ともない感じで治療を終わらせた。


 ほーん、なるほどなぁと思ったよその当時は。これ、浄化じゃなくて瘴気俺が吸い込んどるだけやんと。


 もうそれに気づいた瞬間、俺の今後の予定はぜんぶ変わったよね。この異能を活かして、物語途中で死んでしまう推しをどうにかして助けて、なんならそのままくんずほぐれつな関係になれたらいいなぁとか思っていたが────これ、絶対17までに死ぬって直感的に思ったよ。


 それなら、推しを助けに助けまくって、俺に激重感情抱かせながら盛大に散るしかねぇなって、思ったんだ。


 どうしてそう思ったのかって?


 前世、死んだ時期のマイブームは激重感情曇らせだったんだ。

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