第16話 パストリーパー③
無機質なその部屋の空間には、大型のサーバーが無数に置かれていた。
パストリーパーはこの中の情報を可能な限り自分の頭の中に記憶していかなければならない。
「ここに来る前にも、オレもそこそこ歴史を勉強して来たつもりだが、この情報量は尋常じゃない。小型のメモリも持って行くことになるが、向こうに着くまでに壊れてしまったり、もしかするとパラドックスの影響を受けてしまう可能性があるもある。最期はここ!我々のここにかかっている」
そう言ってハイムは自分と僕の頭を指差した。
「向こうとこちらとの通信手段はあるのですか?」
「ああ、『ポート』と呼ばれるものがあるのは知っているだろ?そのポートはTLOのセンター内にあるんだが、なんと5重のセキュリティがかけられているらしい。大統領や各国の要人並のセキュリティだ。伝達にはタイムリープ用の無人のマシーンがあって、必要なものはポートから受け取れるらしいが、無人機の到達確率は36%だそうだ」
「到達確立…低過ぎませんか?」
「あははは。そうだよな。なので頼りは通信だけ。通信と言っても、未来から過去へ一方的に送られるだけ。過去からは送れない。大事な記録はTLO本部の耐火金庫に記録媒体とメモで残す」
「まるでタイムカプセルですね」
「その通りだ。研究者達が今、血まなこになって過去との通信手段の開発に総力をあげているらしいが、まだまだ途上段階だそうだ」
「原理としては、可能なのではないですか?」
「パストリープは片道切符、一方通行だからな。向こうの世界で燃料を奇跡的に手に入れられれば話は変わってくるが、今の状況ではそれは不可能だ。ポートは設置した。しかし向こうとコチラのリープ技術を確立できていないんだ」
「貴方が向こうでそれに関わるのですか?」
「マインドリーディングか?流石だな。スピードが速い。正確には、過去に行ったオレが、ポートの設置をするらしい。そう言われても、今の『オレ』はそれを未だしていない訳だから、プレッシャーしかないんだが。確実に過去には到着することはおかげでわかった訳だから、とても気が楽だよ」
「最初にパストリープに成功したルイス・ダーシーは、ポートも無い、ましてやTLOのセンターも無い、生活の資金も無いのに、一体どのように生き延びたのですか?」
「それをオレの口から説明するのか…。君の偉大なるおじいさまからは何も聞いていないのか?」
「曽祖父はTLOで学べと。彼の口から何か語ることを恐れているようだった」
「……。ジャックにはもう会ったか?ここの総括責任者のジャック・ミラー」
「ここに来た時に一度…」
「この話を君に伝えるにはあの人が適任だ。…ジャック?聞こえているだろ?ジャーック?」
ハイムはモニターに向かって大声でジャックの名を呼んだ。
「ハイム、ユージン」
スピーカーからジャックの声が聞こえた。
「こっちに降りて来られるか?オレ達の話しは聞いていたんだろ?」
「ハイム、わたしを暇人だと思っているだろ?犬を呼ぶように私を呼ぶなよ」
「いいから来てくれて。ユージンにことの経緯を話すべき時だ」
ジャック・ミラーTLO統括責任者
「お忙しいところ、恐れ入ります」
「遅かれ早かれ、君には伝えるべき話しだからね。この話しがリクから君に伝わっていなかったと言うのが驚きなんだが、僭越ながら私から話しをさせてもらうよ」
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