第15話 パストリーパー②
ハイムと共に情報処理室へと向かった。
「シミュレーション訓練はもう経験したか?」
「はい、昨日。シミュレーションEレベルを。あの衝撃に驚いてしまった。訓練の後、自分の脚で歩けるようになるまで半日以上かかりました。恥ずかしい」
「なに、気にすることはない。オレは最初、レベルJからのスタートで、その日は1日ダウンした。レベルEになるのに、オレの場合はスタートして半年以上もかかったんだ。君はやはり相当に優秀なんだな」
ハイムはそう言って、豪快に僕の背中を叩いた。
「あの衝撃波は凄まじいですが、これが実際のタイムリープでは、更に相当な負荷がかかるのでしょうか?」
「そうらしいな。理屈としては、フューチャーリープの場合には、前に進んでいる時の波動に乗りながらの移動になるが、パストリープは、例えるならこちらに押し寄せてくる大きな時の波に逆行して突っ込んで行くようなものだ。その分、リーパーには膨大な負荷がかかる」
「なるほど……」
「ところでアーカイブ室には?」
「はい、ここに来てからは毎日行っています」
「えらいな。僕は最初のころは身体訓練でクタクタで、2日に一度しか行けなかったよ」
「ハイム……貴方に質問があります」
「なんだい?何でも聞いてくれ」
「実際に僕らが過去に無事に到着したとして、本当に歴史を変えられると思いますか?どれだけ歴史を変えようとしても、結局はパラドックスに飲み込まれて、何も変えられないのでしょうか?」
僕はハイムに、思い切って自分の抱えている疑問を尋ねてみた。
僕の最大の疑問に対して、ハイムの見解が聞いてみたかった。
「例えば何かが変わったとして、我々がそれを知る術がない。タイムパラドックスは発生しているのか?発生した上での『現在』なのか?これまで5人のパストリーパーが過去に送られて、それによって何か変わったのかもしれないし、変わっていないのかもしれないしな」
「貴方にも明確な答えがないのですか?」
「もしも答え合わせができるとするなら、それはタイムリーパーの『記憶』だけだ。歴史を変えることで結果的に、既存の記憶も塗り替えられてしまうのか、或いは今の『記憶』をそのまま維持できるとするならば、そこに違いを見出せるのは我々自身ということだな」
「そうなると重要となるのは、僕たちの『記憶力』と言うことになりますか?」
「その通りだ。記憶に照らして確実に記録を残して行く。でなければ、このタイムリープ計画が何の役にも立っていないと見做されて、予算を付けてもらえず、TLOは解体だ」
そう言ってハイムは豪快に笑った。
「さあ、着いたぞ。過去から現在に至るまでの膨大な資料が残されているアーカイブ室だ。この室内にいる限り、エアースクリーンで自由に閲覧が可能だ」
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