第13話 真実 ⑥
「幼いお前を両親から引き離し、私の手でお前に訓練と教育を施した。そしてCIAの協力の元…いや、正確にはアメリカ国防省の支援の元でお前を訓練へと送り込んだ」
「変だとは思ったのです。いくら親戚筋にあのウィリアムズ家がいたとしても、おじいさまが世界的に有名な学者だとしても、僕が単にアメリカ国籍を取得しているからと言って、そう簡単に、日本で暮らしていた僕を、CIAの中枢機関に送ることなどできるものかと」
「私を恨むか?ユージン」
「………僕がこの心の中に数年間抱き続けている瑠心へのこの気持ちは、けして遺伝子操作によるものではないと信じています」
あの『宝の地図』でタイムカプセルを掘り起こした日から、僕がずっと心に思い続けた瑠心への想いは、僕自身のものだ。
「人の愛は、どうしたって操作などできはしない。私はこれまで、人の気持ちを自分の力で操作すらしようとしてきた。しかし愛こそが『神』の領域だと言うことを、私自身が身に沁みてわかっている」
リクの口から『神』という言葉を聞いたのは、おそらくこの時が初めてだったような気がする。
「お前が、瑠心に心を寄せてくれたらと願った。寄せてくれることもわかっていた。
私の育ての親であった『彼』はね、通常では考えられない程の知能と特殊能力を持ち合わせた人だった。
美しい容姿、並外れた体力と運動神経。優れた人格。あのような人物が存在することが、私には到底信じられなかった。
彼は他の誰よりも瑠心を深く愛し、アメリカや各国の主要人物との関わりで、世の中を正すために尽力していた。彼の生い立ちに疑問を持った私は、何とかして父と慕う彼を知りたいと思うようになった。
私は遺伝子学の分野へ進み、何よりも先に彼のDNAを徹底して調べ、驚くべき事実を知ることになる。それからは、私の…お前を誕生させる為の長い旅が始まった」
「……しかし、今の世の中を見る限り、『彼』の歴史修正は失敗しているのではないですか?『第三次大戦の阻止』はできていないでしょう?」
「ただ一つの歴史の小さな歯車が、後の結果に大きな影響を与える。
優は尽力したが、彼の力でもどうすることもできない事態が発生したんだ」
「であれば尚更、僕は…パストリーパーになります。先祖から貴方によって紡がれて、僕に受け継がれたこの僕自身の能力を最大限に活かして、僕は…瑠心のもとへ行きます。そして『僕』は、必ず、人類の歴史と未来も変えて見せます」
メグは、僕の肩に頭を項垂れて泣いていた。
パストリープが危険なことも、おそらく過去に行くと、再びこちらの時代には戻れないことも知っているのだろう。
「おばあさま、大丈夫です。歴史が証明しているのだから、きっと僕のパストリープは成功します。ただ……これから僕は極秘訓練に入ります。おそらく今後数年はお会いできないてしょう。
今度お会いできる時は、過去へのリープに出発する直前になります」
僕はメグをそっと抱きしめた。
今回、帰省をしてショックだったのは、抱きしめた曽祖母の身体は、驚く程に細く小さくなっていたことだった。
訓練を終えるまでの間に、また再び彼女に会えるだろうか。
そう思うと涙が溢れて止まらなかった。
「ユージン…大切な貴方を、危険に晒すことは嫌なのだけれど。今まで本当のことを伝えられなくて、本当にごめんなさい。
それに、例え歴史が証明していても危険なことに変わりないでしょう。
未来は虚いやすい。タイムリープはとても危険な行為です。それこそ、神の領域に、自然の理に背く行為です。
それでも…それでもどうか貴方に、神様のご加護がありますように」
「ありがとう…おばあさま。わかっています。おじいさまもおばあさまも、僕を心から愛してくれたこと。ちゃんとわかっていますから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます