第12話 真実 ⑤
リクは、眼を閉じたまま深く深呼吸をした。
再び眼を開けると、エアーフレームを僕の目の前に浮かび上がらせた。
エアーフレームに浮かび上がったのは沢山の瑠心の映像だった。
「『ユージン』を誕生させるために。
彼女にお前を送り届けるために。
わたしの長年の目的の発端は地球環境荒廃の阻止、人類の争い、戦争の阻止、それも勿論ある。それこそがTLO発足の目的だ。
しかしわたしの真の目的は、彼女の幸せだった」
「彼女……瑠心のことですか?」
「そうだ」
リクはテーブルの上のシガレットケースの蓋を開けた。
シガーカッターを手にすると、取り出した葉巻の先を切った。
するとメグが僕たちが話す部屋に入ってきて、僕の隣りの椅子に座った。
リクはゆっくりと葉巻を口に咥えた。
彼の葉巻を持つ手が少し震えているのがわかった。
長いマッチで火をつけると、葉巻に徐々に火が回って行く。
リクは葉巻を口に吸い込み、深く息を吐いた。
「………おばあさま、部屋の中ですよ。おじいさまを注意しなくても良いのですか?」
僕は隣に座るメグに言った。
「今のあの人には、葉巻が必要よ。仕方がないわ」
「……今まで、おばあさまはおじいさまが部屋で葉巻を吸う事を絶対に許さなかったのに。それ程のことですか?」
メグは何も言わずに頷いた。
「彼女には…瑠心には夫がいた」
リクがやっと重い口を開けた。
「夫…しかしファミリーアーカイブからその情報は消えていますよね?データを消したのはおじいさまですか?」
「正確に言うと、彼女の夫のアーカイブデータを消したのは彼自身だ。私は更に、彼が消したトレースを消したまでに過ぎない。しかしお前は、やはり気づいていたのだな」
「マトリックス不自然に乱れていたので」
そう言うと、リクがふっと微笑んだ。
「彼女の夫の名前は『優』と言った。
瑠心が私の母だとすると、優は私の父のような存在だった。私を育てたのは瑠心と優だ。
そうだ、私は…彼らによって救われた自分の幼少期の美しい思い出を守りたかった。彼らがいなければ、今の私はない。
父の…優の存在の意味を知った時、なんとしても優を誕生させなければならないと思った。
私の力で、出来ることは全てやろうと」
リクのエアースクリーンには、若い頃の瑠心と共に、僕によく似た青年が映し出されていた。
この映像は、ファミリーアーカイブの中では見たことが無かった。
メグが僕の肩にそっと手を置いた。
『優』という人物が誰なのか。
僕はその答えをリクに聞くことをやめた。
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