第10話 真実 ③

アーサーはユージンの眼をじっと見つめた。


「驚いたな。実際に会うまで、本当に君のような人物が存在するのかを疑問視していた。まるで人類の叡智をそのまま「人」にしたような人物だ。人の可能性というのは、この域にまで達することができるとは」


「そうでしょうか」


「それにしても、君との会話は肌にビリビリ来る。興奮と緊張で汗が止まらないよ。しかもまだ14歳の少年にだ。

こんな緊張感のある会話は、私の生涯の中で2人目だよ」


アーサーは執務机から窓際に歩き出した。


「1人目は…………」


その時のアーサーの読心をしたユージンは、驚きで胸が一瞬にして締め付けられそうになった。


「マインドリーディングか…私もその能力は多少は受け継いでいるが、君のそれには到底及ばない。しかも君は、ここに入ってきた瞬間から自身の思考を完璧に閉じているな。」


「貴方は…」


ユージンはアーサーに眼を凝らして集中した。


「僕の母方の血縁ですね?そして、僕の曽祖父と会ったことがある」


アーサーはゆっくりと頷いた。


「君に皆まで告げる役目は私にはいささか気が重い。休暇中は日本に帰るのだろう?君のおじいさんと…あの偉大なるリク・フジワラとしっかり話をしてきたらいい。」


「……わかりました」


「タイムリープ訓練に入ったら君の特殊訓練が終了するまで数年は日本には帰れない。しっかりと休暇を楽しんできてくれ。そして、本当に君の進むべき道がこれで良いのか、再度しっかりと熟考してくることだ」


「はい。ありがとうございます」


「ユージン…一つ聞きたいのだが」


「はい、何ですか?」


「君は曽祖父の意思を継ぐため、その一心でここに身を投じているのか?」


ユージンはしばらく推し黙った。


「確かに、曽祖父の意志と僕の意思は、重複する部分はあるかもしれませんが、僕は僕の意思で、ある目的の為にここに身を置いています」


「それはなんだい?人類愛か?」


そう言われ、ユージンはふっと笑った。


「そこまで崇高なものではありません。確かにこの世の中を良い方向へ変えたい気持ちはありますが、僕のそもそものの動機は至極単純な理由ですよ。言葉にするのも躊躇われるくらいの…」


「単純な理由?」


アーサーはその時、初めてこの少年の少年らしい表情を見た気がした。


「これは…面接ですか?」


「いや、オフィシャルではない。私個人の興味だよ。人並み外れた能力を持っているとはいえ、まだ14歳の少年が、普通の生活を選ばす、敢えてこの厳しい生き方を選んでいる理由」


「ええ、確かに辛い生き方ですね」


「それでもなお、君を突き動かすとのはなんだ?選ばれし者の使命感か?」


ユージンは少し黙り込んで、ニコッと笑った。


「僕は、どうしようもないくらい恋をしているんです。普通に生きていたのではけして出会えない女性に。その人に会うために、僕はここにいます」

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