第8話 真実 ①

アメリカ合衆国CIA情報センター本部


「ユージン!ユージン・フジワラ」


トレーニングジムでビルドアップをしていると上からの緊急の呼び出しを受けた。


「ペンタゴンからお呼びがかかった。直ぐに飛んでくれたまえ」


僕は慌ただしくフロリダ州レイクメリーからワシントンD.C.の国防総省へと向かわされた。


「ペンタゴンからの呼び出しとはな…」




「アーサー・ウィリアムズだ」


通されたのはアメリカ国防省OSD国防長官本部の高官の執務室だった。


「CIAでの訓練はどうだった?」


「はい。多くを学ばせていただき感謝しております」


「君は……」


「14歳です」


「あははは。君のマインドリーディングのスピードも誰よりも速い。リスポンスが良いな」


アーサー・ウィリアムズはエアースクリーンを眺め出した。


「アメリカ合衆国マサチューセッツ州ボストン生まれ。一歳で日本の曽祖父母の家に移住。12歳で再びアメリカに渡米。知能指数200。身長178センチ、体重58キロ。その若さで工学、経済学、医学のドクターの後期を全て取得。身体能力Sクラス、CIAのエイジェント育成プログラムのすべての教科においてトップの成績を収めている。」


「ありがとうございます。貴重な機会をいただきました」


「しかし君は、諜報部員にはまるで向いていない。容姿が美しすぎる。人に君自身を強く印象づけてしまう」


「はい…諜報部員になれるとは、僕自身も思っていません」


カチャッ!


アーサーが銃を構えた。

引き金に目線を落とした一瞬の間にユージンの姿は彼の前から消えていた。


「見事だな、ユージン・フジワラ」


「貴方から殺意も感じなかったが、この状況ではこうしてディフェンスをして見せた方が、何かと有効であると状況判断しました」


応接ソファの陰からユージンが出てきた。


「先程、私の執務室に来るまでの間にすれ違った人物の特徴を全て上げたまえ」


「一階の階段に差し掛かった時にすれ違った男性。歳は30代後半。髪はダークブラウンにストレートヘアのオールバック。ネクタイは紺色に白い水玉模様。スーツ、ネクタイともダーバン製。ネクタイピンとシャツのカフスにはハーバード大学の校章が。靴はブラウンの革製。黒の靴紐で右側の靴紐がほつれかかっていた。左手に持っていたのはバハマ諸島の地図」


「ほほう……」


「左利き。身体の重心はやや右に寄りがち。恐らくは左脚膝に負傷歴あり。ややナルシスト傾向。香水はクリスチャンディオールのディオールオム。マインドリーディングの結果から同性愛傾向あり」


「最後のは私も把握してなかった」


「まだありますが、続けますか?」


「いや、もう十分だ。2階への階段は何段あった?」


「14段。9段目と10段目だけ高さが他より8ミリ違います。設計ミスか?こうしたテスト用に意図的にそうしているのか」


「見事だな…見事だ」


「余計なことかもしれませんが、1階入り口右側にいたSPはアルコール中毒の傾向あり。人事異動を考慮すべきかと。調べれば呼吸からアルコールが抽出されるはず。胸ポケットに小ボトルのヘネシーを入れています」


「……それも、把握外だ。直ぐに対応しよう」


「5階入り口中央のSPは英語の母音に特徴があった。中央アメリカ地域のスペイン語圏の出身。おそらくメキシコ。1日、2日前に髪染めをしたばかりのはず。朝に食べたものはチーズ味のドリートス。シャツの上から4番目のボタンが取れかかっていた。優秀な人物とは思うが生活の乱れがある。マインドリーディングではパートナーと離婚をしている」


「見事だ、ユージン・フジワラ」


「恐れ入ります」

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