第5話 パンドラの箱 ⑤

僕はリクに一枚の写真を差し出した。

写真の中の少女は小学校低学年くらいだろうか?

僕と同じ歳くらいに見えた。

とても愛らしい少女。

スヌーピーの柄の付いたピンク色のバッグを肩から下げていた。

その両隣には、彼女より背の高い少年と父親らしき男性が写っていた。


「ああ…この写真だ。この写真を入れるなんて。あははは。おかげでずいぶんと説明しやすい」


リクはそう言ってテーブルの椅子にゆっくりと腰掛けた。

僕も続いて彼の座っているすぐ隣の椅子に腰掛けた。

リクは吸いかけの葉巻を灰皿の上へそっと置いた。

そしてその写真をゆっくりと手に取った。


「可愛い女の子だろ?」


写真の中の少女を指差したリクは

とても穏やかで優しい表情をしていた。


「はい。とても可愛い…。この子は誰なのですか?」


「この人たちは私たちの先祖だよ。

この大人の男性はお前から見て6代前の藤原家の先祖で、

私たちが今まさに住んでいるこの家の最初の主人だ」


「ご先祖さま?僕とおじいさまの先祖ということ?

この家はこの人が生きていた時に建てられた家ということですか?」


「ああ、そうだ。この家が建てられて、もう100年以上になる。

この家は内装は数回ほど修繕してはいるが、とても丈夫な良い家だ。

私が家族から受け継いだ…宝物だ」


リクにとってこの家は本当に宝物なのだろう。

彼が幼い頃に育った家だと聞いたことがある。

リクはまたゆっくりと写真に目線を落とした。


「この左側に写る少年がユージン、お前の5代前の祖先で名前を慶太という。

私はこの人の孫にあたるんだ」


「ひいおじいさまのおじいさま…じゃあ、この女の子は?この男の子の妹ですか?」


「そうだ、名前はルミという。

瑠に心と書いてルミと読むが、Lumiはフィンランド語の「雪」という意味で名付けたらしい。

なんでも彼女は積もるほどの雪が降る11月に生まれたそうだ。

妹が生まれた一報を聞いた時、慶太がその時に読んでいた絵本に載っていたLumiという名前をそのまま付けたそうだ」


「11月に雪ですか?」


「ああ、この辺り一面に積もっていたらしい」


「今では考えられません」


「そうだな。この頃からすると、ここも、日本も、世界中…いや、地球そのものがすっかり変わってしまった。

温暖化が加速して私の幼少期より平均気温が4度、海抜も5メートル上昇した。

今ではあの沖縄よりも北海道の方が暑い日が多い。

異常気象が続いて国力の乏しい弱い国々がどんどん崩壊し、世界大戦も勃発した。

化石燃料もいよいよ枯渇し、原油は既に底をついたと言われ、天然ガスなどの代替燃料もこの先一体、何年持つことやら。

こうなることはわかっていた。

もっと早く手を打てたはずだった」


悲しそうなリクの顔を見るのが忍びなく、僕はまた写真に視線を移した。


「ルミ……ルミか。ステキな名前ですね。彼女の印象にピッタリだ」


僕は写真の中のその少女に目が釘付けになっていた。


「彼女はね、私の育ての親なんだ。」

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