26.悪魔の囁き

side.アラン


夢を見る。

ランと知らない男が睦み合う夢だ。

夢だと分かっているのにリアリティがあり、まるで現実に起きている出来事だと錯覚してしまう。

「なんて夢だ」


  『本当に夢なのか?』


どこからか声がした。俺を惑わす悪魔の言葉とすぐに分かった。だから否定した。俺のランが俺以外を愛することはないからだ。


  『本当に?』


声の主は俺を惑わそうと問いかける。人間、同じことを繰り返し聞かれると最初は自信に満ちていたのに次第と不安を覚えるものだ。声の主が問うのはそれが理由だろう。

俺を不安にさせてランへの猜疑心を植え付ける。なんて卑劣なことか。俺は悪魔の言葉に惑わされたりはしない。

俺はランを信じる。しかし、悪魔はそんな俺を嘲笑う。

「何がおかしい?」


  『どれほど最低な相手でも、そこに愛がなかったとしてもお前には婚約者がいた。そんなお前に近づき、誘惑する。そんな奴のどこに信用性がある?お前と同じように誘惑された奴が他にもいたはずだ』


さすがは悪魔。ランの純真さなど悪魔には到底理解できまい。ランを侮辱したことを後悔させてやる。

「ランが他の奴を誘惑するはずがない。ランが愛しているのは俺だけだ。他にはいない」


 『本当に?』


芸のない奴だ。猜疑心を植え付けようとするにしても魂胆が見え見えなら植え付けるわけがない。

「ああ!」

俺は苛立ちながら返答をする。どうして夢の中でこんなにも感情を乱さないといけない。


  『信用に値するのか?』


「ああっ!」


  『あのように恍惚として笑みを浮かべて他の男と肌を重ねているのに?』


悪魔の言葉に従う形で俺の目はランと知らない男が抱き合っている姿を映す。その姿は俺の心を更に苛立たせた。

いや、違う。苛立つ必要はない。これは夢だ。悪魔が見せているに過ぎない。実際に起こっているわけではない。悪魔の卑劣な罠にハマるな。


  『アルギス・カリマン、ゲルマン・クレメント』


「?」


  『お前が一途で純粋だと称したランの恋人たちだ』


「なっ!ち、違う。彼はランの友人だ。ランがそう言っていた」


  『ただの友人?本当に?彼ら向ける目は本当に、ただの友人に向ける目か?どうして彼らは婚約破棄された?』


婚約破棄をされたのは彼らが不甲斐ないからだろう。ランには関係がない。確かに、ランを見る彼らの目に違和感を覚えたし、距離が近すぎる気もするけど、でも同性の友人なんだから距離感なんて意識するわけがない。


  『信じるも、信じしないもお前の自由。ただ、お前は自分の婚約者に言っていたな。ランとはただの友人だと』


「っ」

そうだ。確かに俺はフィオナに言った。

・・・・・あの時の俺とランがいましていることは同じなのか?

俺を裏切っているのか?友人だと嘘をついてあいつらとも愛を交わしているのか?この男と同じように触れることを許したのか?

違う。そんなはずがない。これは全て罠だ。悪魔が俺を陥れようとしている揺さぶっているのだ。この程度のことで俺とランの絆が切れるはずがないんだ。


  『確かめに言ってみるといい』


「貴様に言われなくともそうする」

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