第9話:懐疑
『今回の交流祭、何かおかしいんだよね――だから、警戒しておいて。それと、管理局についても色々と調べて欲しいんだ。頼んだよ』
話をまとめると、そういうことだった。具体的に何が怪しかったか、と言えば書類の動きや、職員の言動が普通ではないということだった。
彼女はダンジョン管理局の本部にも出入りすることがあるから、その時に気づいたらしい。
そして、その後に言われた言葉。
『頼りにしてるから。頑張ってね』
何か、急に突き放されたような感覚があった。ただ、その原因は彼女自身にも分からなかった。
(頼られるのが、嫌なのかな)
なんとなく思考がまとまらなくて、自転車を止めた。ブレーキの軋む音が響いた。
近くには天音一人しか居ないせいで、余計にその音がよく聞こえる。
それから、外の景色に
暁に染まる空に、たなびく
小高い場所にあるこの道路からは、街がよく見えた。東京ほどではないが、高層ビルがいくつかある。寂しげな夕暮れの光に照らされ、その窓がその光を反射して
待ち行く人々はまるで米粒のように小さく、ぽつぽつと暁に染まる街を歩いていた。
また、遠くにある川沿いには風車にも似た白い塔があった。さらにダンジョンの近くには魔力を利用した施設も存在した。頂上にある淡く光る青色の石が特徴的だ。
「変……か。だからって、何すればいいんだろうね」
独りごちる。
正直、現実味がなかった。とりあえず青幻高校と鳥里高校のダンジョン管理局が怪しい、ということは分かった。そして、それについて調べる手立ても教えてくれた。
怪しいと思っても、秋花は立場的に動きにくい。だから頭の回る天音に頼んだようだった。
しかし、だからといって秋花の言うような『ダンジョン内部の遺跡を不正に利用しようとしている者が居る』なんてことをわざわざ調べようとは思えなかった。そこに踏み出すに足る理由が、天音にはなかった。
自転車をまた走らせようとして、天音は止まった。
目の前に立ちはだかるようにして、麻でできた古臭いローブを着込んだ少女が居たからだ。
天音より幾ばくか身長が低く、フードの下から覗く髪は白。
「あの……どちら様でしょうか? できればどけていただけると――」
「お願いがある」
「はい?」
「どうか、キミたちの学園を――いや、
パサリ、とフードが落ちる。
紫色の髪に、青い瞳。少し薄汚れた印象の残る少女だった。
「――え?」
何か、彼女たちの日常が崩れ落ちる音がした。
◇
ピリリ、ピリリ、とスマホの目覚ましタイマーが鳴っていた。
「あー……」
うめき声を上げながら手探りでタイマーを止めたのは青髪の高校生――
ベッドの中でもぞもぞと動きながら、スマホで通知を確認する。
それから、数秒。
「あぁ⁉」
彼は飛び起きた。
なぜなら、彼の配信サイトでのチャンネル登録者が先日の五百倍近い数値になっていたからだ。
「ご、ごまんにん……」
急いで確認すると、どうやら三日前の交流祭メンバーによる遺跡探索配信によって大きく視聴回数が伸びたようだった。
軽く調べてみると、どうやら新エリアとアイテムの発見があったというのが話題性を呼んだらしい。それに、そして高校生なのにキャラ立てがされていて、さらに強いという部分も評価されているようだった。
とはいえ、キャラ立ては意図的にしているわけではないのだが。
「乗るしかねぇ! このビッグウェーブに!」
連理は立ち上がり、叫んだ。
「うるさいわよー。起きたなら早く学校の準備しなさーい」
「も、もちろんそれは後でやるよ!」
下から聞こえてきた母親の声に連理は返事をする。
今日は鳥里高校の生徒が青幻高校に来る日だ。となれば、そのタイミングで地下ダンジョンの配信も行えば、さらなる視聴者も獲得できる。
連理は内心期待しながら家を出た。
◇
ガラガラ、と部室の扉を開けると、そこには秋花一人だけが居た。
「お、連理くん。ちょうどいいところに」
「ん? 何がちょうどいいんすか?」
「いんや、ちょっと大事な話があってね」
秋花は薄く笑って、部屋の隅にちょいちょいと招き寄せた。
「人に聞かれたくない事なんすか? もしかして万引きでもしましたか?」
真顔で冗談を言う連理。傍から見たら本気だと思われそうだ。
「違うわ。キミは私を何だと思ってるんだ――っていやいや、そういう話じゃなくて」
コホン、と咳払いとともに話を区切った。
「これは天音ちゃんにも話したんだけど――ダンジョン管理局の動きがちょっと怪しいって話ね。なんというか、今回の交流祭、たたでは終わらないんじゃないかと私は睨んでる」
「……ほう?」
連理が眉を寄せる。
「明らかに交流祭には必要ないような物資が管理されていたりするんだよ。私でさえ知らないアーティファクトとか、明らかに攻撃用と思われる魔導具。それに鍵開けとかの盗みに使う魔導具とか」
「へぇ……でも、そういうのって基本ダンジョンから出土しますよね? それに、ダンジョンの中でしか使えないですし。特段何かありそうな風にも思えないっすけど……」
「でも、ウチの地下には変なダンジョンがあるでしょ? なら魔導具だって簡単に使えちゃう――そういうことだよ」
「なるほどぉ……」
連理はどこか
「あんまり納得してなさそうだね」
秋花は苦笑する。
「そりゃそうですよぉ。いきなりそんなこと言われてもどうすりゃいいんだって感じですし……」
「でも、大変になってから行動したんじゃ遅いよ。まずは協力してみて欲しい」
「まあそうかもしれませんけど――それはその時なんとかすればいいんじゃないっすか? 俺、あんまり後悔しないので」
秋花はその言葉に面食らう。単純な考えなしだと思った。しかし、その瞳にはそれ以上の決意がこもっているように感じた。だから、何も言えなかった。
一瞬、沈黙が走る。
「……そうかい。ま、それならそれでいいけどさ」
秋花は降参とばかりに手を振る。
「とはいえ、一応こっちでも調べますよ。できる範囲でですけど」
「お、そりゃ嬉しいね」
瞳の奥に小さな光が宿った。
「さっきはああ言いましたが、調べるくらいならやっとくに越したことはないですし。嫌なのは、どちらかを疑ってどちらかに加担することです」
「……そうだね。まあそれならいいのかな」
秋花は考え込んでから答えた。
そこで、ガラリと部室の扉が空いた。
「こんばんー! あれ? なんかお話中でした?」
そこから出てきたのは赤髪の生徒だった。
「いや、大した話じゃない。それより、今日は鳥里の生徒が来る日だよね? だから色々と準備しなきゃだよー?」
秋花は腕をまくった。
これから、鳥里学園の人間との交流が始まるのだ。
〜あとがき〜
あとがきからはお久しぶりです。空宮海苔でございます。
さてさて、少しずつ物語の始まっていく音がしますね……あれ? 結構遅くないかい?
……まあそんな裏事情はさておき。もしこの作品を楽しんでいただけたのであれば、応援や星などくださるとひっじょーに作者が喜びますので、よければお願いできますと幸いです。また、どんなに短くてもかまいませんので、応援のコメントやレビューなどもとてもとても励みになります。
以上、強欲な作者からのお願いでした。これからもダン学をよろしくお願いいたします!
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