第8話:イベント準備と変な話

 あるビルの一階――探索者補助センターに連理は一人で来ていた。

 他のメンバーとは既に解散している。報酬については連理が貰い、後で山分けということになった。

 横領もできるが……まあ、その時は天音からの鉄槌が下ることだろう。


 そして、連理はその窓口に最後となるあのアーティファクト――が入ったアタッシュケースを提出していた。青色の線と、軽い装飾の入ったSFチックな箱だった。


 さらに、中に入っているものが近くのディスプレイに表示されている。あの小さな鍵と、連理の装備一式だ。


「未発見のアーティファクトですかぁ。まあいいんじゃないっすかねぇ?」


 どことなくやる気のなさそうな受付の女性の声が返ってきた。


「え? 検査とかないんですか?」


 多くの場合、アーティファクトの類は基本的に一度検査に送られる。そして、問題がなければそのまま発見者に返却される。

 例えば、一見しただけでは能力の見当がつかないアーティファクトなどが該当する。


 とはいえ、そもそもが武器の類は彼が提出したような箱に入れられることになる。ダンジョン内でしか開けない箱だ。

 だから、市街でも基本的には安全性が保たれている。


「別にお客様のスキルで鍵って表示されたわけですし、大丈夫っすよ。それに、この形状で武器だったらビックリじゃないすか? だから持ち帰っていいっすよ」

「は、はぁ、そうですか」


 連理はどこか納得がいかなさそうな様子だった。

 しかし、相手の言っている事も一理ある。確かに危険物には思えないからだ。


(……まあ、持ち帰れるのならそれでいいか)


 疑問に思いながらも、帰ることにした。


 ◇


 スレッドタイトル:高校生パーティー、新エリア見つける


▼0001 今日のラベンダー 203X/3/44(木) 14:~~:~~.~~   ID:~~~

https://www.~~~.com/watch?v=~~~

なんやこのエリア

多分主のスキルのお陰で見つかったんだろうけど

物資復活したりするんやろか…


▼0002 名無しの探索者 203X/3/44(木) 14:~~:~~.~~   ID:~~~

新エリアか。そこは結構探索し尽くされてた気がするが…

郷迷市のヤツだよな?


▼0003 今日のラベンダー 203X/3/44(木) 14:~~:~~.~~   ID:~~~

>>2

せやで


▼0004 名無しの探索者 203X/3/44(木) 14:~~:~~.~~   ID:~~~

なる

近いから今度行ってみようかな

俺も入れるんだろうか


▼0005 名無しの探索者 203X/3/44(木) 14:~~:~~.~~   ID:~~~

>>4

頼んだぞ!


まあ言うて配信主がもっかい行くだろうけど


▼0006 今日のラベンダー 203X/3/44(木) 14:~~:~~.~~   ID:~~~

ワロタ


▼0007 名無しの探索者 203X/3/44(木) 14:~~:~~.~~   ID:~~~

>>1

というか、この鍵もなんだ

意味不すぎないか


▼0008 名無しの探索者 203X/3/44(木) 14:~~:~~.~~   ID:~~~

>>7

マジでそれな

とりあえず動向に期待やな

チャンネル登録もしといてやろう


 ◇


「さてさて、鳥里高校の人が三日後ウチに来るワケだ。さりとて全校生徒で来るわけでもない上、放課後だから全校生徒で迎えるわけでもないけど――多少のおもてなしはしないとだよね」


 秋花しゅうかは部室でいたずらっぽく笑った。


「じゃあ、具体的には何するんスカ?」


 一人の生徒が訊いた。


「このイベントの最後にはウチの地下ダンジョン――青幻せいげん遺跡ダンジョンを一回探索してもらう。まあ最後のイベントのときにも使うし、雰囲気掴んでもらいたいからね」

「へぇ、分かりました」


 連理がどこか気の抜けた返事をする。


「んで、連理くんにはその様子を配信もしてもらおうか。広報ってことだよ」

「え? ああ、確かにタイミングはいいですね……やりましょうか!」


 連理は一瞬驚くが、すぐに笑顔でそう返した。

 思えば、今までそこでの配信は行っていなかった。だからいいタイミングということだ。


「返事よし。んで、今回ウチの部活でやるのはそのための整備だね。それと、向こうと合同での最終イベントへの準備。今日はそれらの計画練りってとこ」

「なるほど、了解っす」

「とはいえ、順序的にはイベント準備からのダンジョン探索になるかな。それらが一日で終わる予定――のはずだね」


 秋花は手元の資料を見ながら言う。


「でも、準備期間が三日で、当日は一日だけって短くないですか?」


 他の生徒が質問する。


「まあねー。だから、そんな難しく考えなくていいよ。パッパと軽くやるだけだからさ」

「そうなんですね……分かりました」

「さて、じゃあ始めようか」


 全員で計画を練り始めた。


 ◇


 それから、翌日。計画を行動に移していた。


 青幻せいげん遺跡ダンジョンの入り口。そこはダンジョン探索部の生徒で賑わっていた。

 そして、そこには駅の改札に似た入り口が設置されていた。しかし改札よりは厳重で、横や上からは通れないよう壁が建てられていた。

 そこでは、ダンガーと探索資格を所持しているか、また武器防具が専用のケースに入っているかが確認される。整備されたダンジョンならほとんどの場合存在する物だ。


「じゃあそれはそこに置いてください」


 そんな中、天音はリーダーとして指示を出す立場に居た。クリップボードを手に持っており、まさに仕事人といった言葉が似合う姿だった。

 一方、連理は雑用係として入り口の辺りに装飾を付ける作業をしていた。


「ムムム……これ解けるぞぉ? 早くついてくれ……」


 なんてうなりながらも作業を行っていた。


翼野つばさのさん。この魔導具ってどこに置けば良いんですかね? イマイチ動かなくて……」


 一人の生徒が真ん中がガラス張りで内部に液体が入った柱状の魔導具を持っていた。

 それは魔術で動くシロモノだが、ただの装飾だ。起動すると幻想的な光を放つ。

 本来魔導具の類はダンジョンとその近辺でしか動かないため作られづらい。

 だが、ダンジョンに潜ってある程度の魔力を持った人間なら使えるし、ダンジョン内部での装飾にも使われたりする。だから一定量流通しているのだ。

 それに、ダンジョンの中に都市があるような場所では特に使われる。


「ああ、それは……そうですね、向こうの端っこに置いてください。それから、下にあるボ

タンを押して、上のフィルターを開けると起動しやすいですよ」


 魔術駆動のアイテムは総じて動作が不安定な傾向にある。周囲の魔力量に動作が左右されるからだ。


「分かりました。ありがとうございます」

「天音ちゃーん。こっちの装飾はやたら沢山あるよね? だからちょっと壁に貼り付けてもいいかなとか思ったんだけど……どう?」

「あー……どうでしょう。確かにいいかもしれませんね。一回やってみてください。それから様子を見ます」

「りょうかーい。ありがとねー」

「いえ、私もリーダーですからね」


 天音は優しく笑う。


 それから、一人の男子生徒が寄ってきた。


「なー、これって意味あんのかー? 一日くらいしか使わないんだよな?」

「この装飾は後々も使えます。特に最終イベント――ダンジョン内部での舞台と、探索ですね。ダンジョンが装飾されていればそれだけ印象もよくなります。これは最後まで残すんですよ」


 聞き方というものがあるだろう、と内心思いながら天音は答える。


「ふーん……そっかぁ」


 納得したような、納得していないようなよくわからない声を上げる男子生徒。

 天音はどこか冷めた目線で見送った。


「ふいー。終わった終わった。それにしても、天音さんも大変そうだねぇ。いつもリーダー的な役回りとかやってるし。お疲れ様ー」


 それから、寄ってきた連理がねぎらいの言葉を掛ける。

 それに対し、天音は信じられない、とでも言いたげな顔をした。


「……なんだい、その顔は」

「いえ。そういったことを言ってくださる人だとは思っていなかったので。でも、ありがとうございます」


 天音は少し安心したような笑みを浮かべる。


「なんてこというんだ君は。俺は人に感謝を忘れない人間だぞ。人に楽しんでもらえないと、自分も楽しめないからな」

「……まあ、そうかもしれませんね」


 天音はその言葉に少し神妙な表情をした。


「あー、その、俺結構適当なこと言うからあんまり真面目に受け取らないほうがいいぞ?」


 連理は頭を掻きながら苦笑する。


「自覚、あったんですね」


 天音はそんな彼を半目で睨む。


「はっはっは、その通り。まあでも、あんまり気負いすぎるなよー。楽しくやるのが一番! 俺は楽しむために全霊注いで生きてるからなぁ!」

「でも、私は仕事がありますから」

「……ま、それもそうか。んじゃ、次の仕事なんだ?」


 一瞬考え込んでから、連理は訊いた。


「そうですね――こっちの箱を向こうの人たちに運んであげてください。それから、ここにある小さな結晶をダンジョン内の魔導具に嵌めてください」

「了解! それじゃあ行ってくるぜ〜」


 連理は鼻歌を歌いながら箱を持っていった。


 ◇


「それじゃあ、お疲れ様でしたー」

「はい、お疲れ様です」

「ういー、みんなおつかれーい。じゃあまた明日ねー」


 ダンジョン探索部は解散していた。

 ワイワイと賑わいながら、多くの生徒たちが荷物を持って帰っていく。


 そんな中、秋花と天音はそこに残っていた。


「ちょいちょい」


 秋花は天音の肩をトントンと叩いた。


「? どうしましたか?」

「ちょっと、話があってさ」


 少しだけ真剣な表情で、秋花は言う。


「分かりました。どんな話なんですか?」

「それがね――」

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