第5話:新エリア発見?

「やっ!」

「はっ!」

「くらえー!」


 全ての敵をなぎ倒していた。

 辺りに転がるのは、石材やコンクリート、あるいは一部が鉄でできたゴーレムの死体。人の背丈の二〜三倍ほどもあるそれらは、しばらくすると霧散して小さなブロックとなってコトリと地面に落ちた。


「なんか、明里あかりだけで十分じゃね?」

「……もう少し、レベルが高いところの方がいいかもしれませんね」

「まあなんというか……このまま進んで深層に行くくらいがちょうどいいんじゃないか?」


 零夜れいやが提案した。

 彼は今背中に大きめのリュックを背負っていた。つまり、荷物持ちだ。

 それらは、戦闘になればどこかに置いて戦うことになる。


 その間にも、バン、と彼女のショットガンが火を吹いていた。


「ま、まあそうするか」


『クソ強くて草。強くてかわいいとか最強か?』

『あれ弾の分の金大丈夫なのか?』


「あ、確かにそれ気になるな。ちょっと聞いてみるか」

「やーっ! ぐはっ!」


 返り討ちにあった明里がこちらに吹き飛んできた。


「あいてて……」


 明里は頭を抑えながらクラクラしている。


「おう、おかえり。ところで、ショットガンバカスカ撃ってるけど弾の代金は大丈夫なのか?」

「あ、それね。自分で賄えてる部分はあるし、お母さんもたくさん出してくれてるから大丈夫だよ!」


 ぐっ、と親指を立てた。


「金持ちなんだな……」


 零夜は使い古された自分の短剣を見ながら呟いた。


「あ、でも装備は着てくといつも壊れてお金がかかるから、もうダンガーの保護機能に任せて最近は服だけ着てるね。それでこの前怒られちゃってさ、あはは……」


 頬をポリポリと掻きながら明里は困ったように笑う。


「確かにダンジョン素材の服でそれならそうそう破れたりしませんが……だからって装備着ないで生身で攻撃受けるんですね」


 天音あまねが呆れ気味に笑っていた。


「さて、じゃそろそろ俺もやるか」


 連理れんりはサブステイシスを構え、チャージして発射した。どんくさいゴーレムに当たると同時に、前に出てフラクティオパイル――肘に付けた武装を構えた。

 それはゴーレムの胸を中心に捉え、その巨体が消し飛んだ。


「ふぅ! いいねぇ!」


 当の連理は非常に楽しそうだ。


『当てると楽しい!』


 それから、後方から天音の魔術弾が飛んでくる。それは後方のゴーレムの腕に命中した。

 そして、畳み掛けるように零夜がそのゴーレムに向けて短剣を振るった。


「よし、これで最後だな」


 零夜は短剣を鞘にしまった。


「ないすー」

「ん? ……なんか光ってるな」


 連理はあるゴーレムが落としたアイテムを拾った。

 今零夜が拾っているが、そのアイテムは黒い板のような形をしており、他とは少し違っていた。


 先程のゴーレムの肩装甲が同じような見た目だったはずだ。


「ドロップアイテム?」


『見たことないヤツだな』


 それは中心にコアのようなものがあり、それが不思議な光を放っていた。


「これ……」


 連理は思いついて、スキルを発動した。すると、予想通りそのアイテムの情報がゲームウィンドウのように表示されたのだ。

 彼のスキル『残滓の追求』はアーティファクトの情報と使い方が分かるというものだ。


 しかし、そこには短く『指し示す場所に進め』と書いてあるだけだった。


「指し示す場所……こっちか?」


 特に方角が分かるような指標はないはずだが、連理はスキルのおかげか自然とその方角が分かった。


「? どうかしたんですか?」

「いや、このアーティファクトを見つけてな。説明が指し示す場所に進め、で多分こっちの方向だ」

「初めて見るものですね……こんなのは聞いたことがありません」

「方向? これで分かるの?」

「多分俺のスキルのおかげなんだけど、何となく分かる」

「なんとなく……」


 明里が難しそうな顔をしていた。


「――視聴者さん向けにも説明しておくと、俺のスキルの効果ですね。アーティファクトの情報とか使い方が分かるヤツ。まあいつも今回みたいな『進め』とか『なになにがある』みたいな適当な情報しかくれないんですけどね」


 連理は笑う。


(そういえば、配信してるんだった……)


 忘れかけていた天音が、連理もちゃんと配信者をやっているんだと軽く感動する。


「でよ、面白そうだし行ってみないか?」


 連理による圧倒的な即決。


「いいね! 賛成!」


 さらに明里も爆速で同意する。


『理由適当で笑う』


「ず、随分適当ですね……」


 顔がひきつる天音。


「でも気にならない?」

「おうよ、当然俺はもう行く気だ」

「じゃあ連理を先頭にしてレッツゴー!」


 二人は意気投合してそのまま歩き出す。


「あなたたち、もう少し……はぁ、なんでもないです。楽しむことが大事なのも否定できませんが、私達はあくまで仕事なのですから――」


 ブツブツ独り言を言い始めた天音をよそに、連理は進んでいった。


『この先何があるのか見てみた〜い。ダンジョンで新たなものを見れるなんて機会なかなかないぞ〜』


「そうそう。それに、配信のネタにもなる。つまり視聴者が増える。イコール最高ということだ!」


 連理はワクワクした様子でコメントを読み上げ反応した。


「ま、まあ確かにそう考えれば合理的ではあるんでしょうか……」


 天音はその理論に納得してしまったらしい。


「よ、よし。なんかわからないけど。とりあえずアイテムは回収したぞ」


 アイテム回収をしていた零夜も遅れて合流し、そのまま進み始めた。


 ◇


「ここ、だな」

「え? 何もないけど?」


 連理は壁に手をかざす。


「ほう、なるほど――我々が望むは森羅万象。全てを掌握し、神すらも撃ち堕とせ」


 スキルで呪文が分かったのか、連理はそう唱える。

 すると、レンガの壁がせり出て、さらに上にズレて扉が開いた。こちら側の通路と同じくらいの高さまで開いており、ゴーレムも悠々と通れそうな高さだ。


「随分と物々しい呪文ですね」

「まあな。この手の説明は結構前衛的なのも多い。俺の持ってるアーティファクトもそうだし」


 扉の奥には部屋があり、中は明るかった。しかし、その明かりは自然光には思えない、電気的なものだった。

 周囲の壁は黒色の金属でできており、一部は青緑色のケーブルのようなものが這っていた。さらに、地面には容器のような小物が置かれており、それも黒い金属で出来ていた。

 しかし、床と天上は先程のエリアと同じレンガ製のようだ。


『すげぇ、なんだこれ』

『まさか新エリアか? アツいな。これどうなるんだ』


「SFチック……俺のアーティファクトと同じ文明っぽさはあるな」

「うわぁ〜! これ誰も見たことない場所だよね⁉ じゃあ私が一番乗り!」


 タッ、と急にテンション高めの明里あかりが中に飛び出してしまった。


「あ、待ってください! 未発見ということは危険が多く潜んでいる可能性が――」


 天音が言い切るより前に――明里が真横に吹き飛ばされた。


「うぐぅっ!」

「明里さん!」

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