第4話:準備、そして配信

 ペタリ、と放課後の静かな校舎の中にポスターが貼られた。内容は『学園交流祭ダンジョン探索部編! 配信やってます!』というもの。学生にしてはよくできたデザインで、目にとまりやすいものと言える。

 作ったのは連理で、二人で協力して貼っている。これは秋花しゅうかと話し合って決めたことで、既に許可は取っている。


「よし、とりあえずこんなものですか」

「にしても、俺の配信をここまで広報することになるとはなぁ……」


 うんうんとうなずく連理。


「体外的な活動も含め、大きく出た部分はありますよね。そもそも、昔はこういった他学校と交流するようなイベントは、大学ですら珍しかったものですし」

「そうなのか?」

「ええ。それに個人の活動をここまで利用する事例も昔は珍しかったと……私も人伝で聞いただけなので詳しくは分かりませんが」

「へぇ。までも、それでこうやって色々できんだからありがたいもんだな」

「ええ」

「ういー、お二人共お疲れ様ー。いやー、ついに始まったって感じがするねぇ」


 二人が会話していると、何やら手に書類を持った秋花しゅうかがやってきた。


「あ、秋花先輩。お疲れ様です」

「お疲れ様ー」

「このポスターペタペタが青春感あるねぇ……」

「どこに青春感じてるんですか……というか、あなたもその真っ只中でしょう。何言ってるんですか?」


 天音は吐き捨てるように言う。当たりが強いのは秋花の日頃の行い、ということだろう。


「まあそれはその通りだね!」


 秋花は面白そうに笑う。


「そういや、最後には合同文化祭? みたいなのをやるって聞いたんですが、それに関する準備とかはどうするんですか?」


 『文化祭』と銘打ってはいるが、それぞれのクラスで強制というわけではない。当然許可は必要だが、個人の自由なグループでの活動も存在する。それ以外では、部活総出で文化祭の用意をしているところもある。


「ん、色々やってるよ。そっちにもそのうち回す予定。だけど、今のとこは前言った通りにやってくれればいいよ」


 三人――というよりもダンジョン探索部は先日今後に関する話をすでにしていたのだ。連理のチームに関しては、探索配信を行ったり、青幻学園地下にあるダンジョンについて紹介したりするという形になる。


「分かりました」

「いやー、ウチの部員は全員参加してくれたからね。結構簡単にいけそうだよ」


 今回の交流祭は全員強制参加ではない。

 配役はある程度学校側で調整はされるが、基本は参加者の希望に沿う形だ。今回はあくまで交流祭。最後に文化祭のようなことをやるだけで、普通の文化祭や体育祭とは違うのだ。


 あまりに人手が足りなくなれば強制参加にもなるだろうが、今回は自主参加でまかなえている。


「へぇ〜、了解です」

「今回のイベント、私に任せられてること結構多くてね〜。しかもよく分かんない仕事が多め。もうやんなっちゃうね……」


 どことなく心労が察せられる言葉だった。


「あはは……まあ学校の宣伝をしたいという目的は確かにあるんでしょうね」

「まあでも、キミたちは割と自由にやれるようにしてるし、頑張ってねー」


 とんとん、と連理の肩を叩いて秋花はそのまま歩いていった。


「……あんなナリして仕事はできるんだよなぁ、あの人」

「……ですね」


 二人は少なくなったポスターを持って別の場所に移動した。


 ◇


〜翌日、メッセージアプリにて〜


たかなし 明里

『みんな〜』

『今日集まらない??』

『ダンジョン探索いこ』

『いい感じのダンジョン見つけたし』

『あ、あとなんか遺跡っぽいし連理れんりにとってもいいかも?』


翼野 天音

『いいですね。ちょうど昨日、こちらでもそれについて話し合っていました』

『詳細はあとで共有しておきますね』

『それにしてもダンジョンを探してくれたり、明里さんは用意周到ですね。そちらも何か話があったんですか?』


たかなし 明里

『え?』

『話とかは来てないけど、、、』

『行きたかったから調べただけ〜』


ゼロまんじゅう

『グループメッセージの方で来てたぞ。でも、そこまで細かい内容ではなかったな。連理が配信できるから、青幻高校と相談しながら探索してくれって感じだった。それ以外は追々連絡すると言われた』

『だから基本そっちに従おうと思ってる』


たかなし 明里

『ww』

『そういえば零夜のアカウント名ゼロまんじゅうってw』

『零夜だからゼロなの? まんじゅうはなんなんだろう…』


ゼロまんじゅう

『そう、零夜の零でゼロ。まあまんじゅうは名前決めてたときに食べてたから……』

『やっぱ本名入れるのちょっと抵抗あってだな』

『本名の方がわかりやすいよね?』


たかなし 明里 

『面白いからいいと思う!w』


翼野 天音

『ネットリテラシーが高いのはいいことですね。最近はそういう事件もかなり減ってきましたが…』


たかなし 明里

『でも』

『配信で本名分かっちゃうし』

『今更じゃない?』


ゼロまんじゅう

『……確かに』


たかなし 明里

『ダメじゃんw』


翼野 天音

『まあ』

『最近は防犯対策も凄いですし』

『同じようにダンジョン探索で顔や本名バラしてても問題ない方が多いですし。問題ないんじゃないでしょうか?』


たかなし 明里

『あー』

『確かにそうだね!』

『ごめん!全然大丈夫だったみたい!』


ゼロまんじゅう

『別に大丈夫』


アオバ

『すまん! 一旦話戻して、探索の話するぞ〜』

『色々決めてるって言ったけど、あくまで、みんなが楽しめる形でやってく予定。まあやることは違うけど、文化祭準備みたいな感じだと思ってくれると想像できるかな』


たかなし 明里

『りょうかい!』

『私も協力できることは頑張るね〜』


ゼロまんじゅう

『了解』


翼野 天音

『あ、説明してくださってありがとうございます。それで、今日の探索の詳細ですが――』


 ◇


『LIVE START』


 廃れた神殿のようなダンジョンに連理たちは居た。若干黄色がかった白色のコンクリートで辺りは作られていた。上下左右どこを見ても人工的な壁で埋まっている。

 そんな薄暗い通路の中、揺らぐことのない炎のような照明が辺りを照らしていた。魔術で動いている照明なのだろう。


「皆さんこんにちはー。ということで今日も昨日と同じメンバーでやっていきますよー」

「おっはようございまーす! 明里です! 今日もよろしくです!」


 おはようございますの時間ではないのだが、明里が元気に挨拶をした。


『おはよう……?』

『こんにちはー』


「と、いうことで知らんダンジョンに来ました。今回は仲間が居るのでいけるはず……!」


『今までソロで潜っていたのがおかしい』


「いやぁ、パーティーに抵抗があるわけじゃなかったんだけど……ソロってロマンない?」

「まあ……気持ちは分からないでもないが」


 零夜が軽く同意する。


「だよな! ということでGO!」

「何がということでなのかサッパリわかりませんが、行きましょうか」

「え、なんか当たり強くない……?」


 明里が驚愕を顔に浮かべて天音を見た。


「こ、この人にはこれでいいんですよ」


 若干頬を赤らめ、天音は顔を逸した。


 そして、一行は奥地へと向かった。


〜あとがき〜


 P.S.明里のメッセージアプリでの口調は、語尾に「笑」をつけようか迷ってたんですよね。ですが、それをすると私の方が明里の陽オーラに私がやられてしまいかねなかったのでやめました。

 P.S.S.明里と零夜の会話は私の経験のようなもので、ほぼノンフィクションです。もちろん私が零夜側です。

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