第6話:知らない敵
「うわぁ〜! これ誰も見たことない場所だよね⁉ じゃあ私が一番乗り!」
テンション高めの
「あ、待ってください! 未発見ということは危険が多く潜んでいる可能性が――」
天音が言い切るより前に――明里が真横に吹き飛ばされた。
「うぐぅっ!」
「明里さん!」
部屋の向こう、何が起きたのか三人の側からは分からなかった。
しかし、そんな状況でも零夜は飛び出した。
中に入り、状況を確認。明里は部屋の隅でうずくまっていた。
零夜はゴーレムの攻撃をかいくぐり、明里を助け出してから瞬時にブリンクを発動し三人の所に戻った。
「流石の身のこなしですね」
「……そうでもない。能力のおかげだ」
零夜は少しだけ恥ずかしそうにしながら明里を下ろした。
彼が内心『女子抱きかかえるのってどうなの?』と一瞬悩んでいたのは内緒だ。
『零夜さんかっけぇ』
「いたぁーい……ちょっとタイムぅ……」
地面に倒れ込んだまま脇腹を擦る明里。
「敵は待ってくれないぞ――までも、十数秒くらいなら戦っておくから休んでくれ」
連理は入り口の前に立つ。
その入り口から見える範囲のゴーレムは、そのほとんどが黒い金属製だった。
そして扉から出てきたゴーレムが拳を振りかぶった時。
連理は左腕の上腕辺りに手を伸ばし、その下の装置から伸びていた紐を一気に引いた。
すると、そこに装着された装置から、丸い形に黒い金属の板が展開される。
その板は、盾となる。
ゴーレムの一撃を防ぎ、鈍く低い金属音が鳴り響く。
この装備の名前は『スクトゥム』。展開できるだけのただの盾だが――その頑丈さは折り紙付きだ。
「くっ……力強いなおい!」
しかし、受け止めた左手が痺れてしまう。
若干姿勢を崩しながらも、相手の腕を斬りつける。
炎の刃が腕の半ばまで走り、そのまま自重で崩れ落ちる。
さらにそれによって姿勢の崩れたゴーレムの胸元をバッサリと斬り捨てた。
炎の軌跡が走り、後には
『炎の火力めちゃくちゃ高い……これならなんでも斬れそうだね』
「案外斬れないヤツはいる……ぞっ!」
さらに後ろから来たゴーレムの攻撃を横にステップして回避し、もう一体のゴーレムの
「堅固なる壁よ、我が敵の猛攻に
次の瞬間、連理の横に黄色の弾丸が破裂した。それは薄い黄色をまとった障壁となって辺りに展開される。
障壁は横に居たゴーレムの攻撃を防御し、その勢いを殺してから砕け散った。
さらに、零夜がそのゴーレムの横に出現する。
「はっ!」
炎を帯びた刃がゴーレムの体を斬り裂き、そのままゴーレムは後方に倒れる。
「助かった!」
「これが私の仕事ですから」
言いながらも、天音はどこか満足げだった。
「一回退くぞー! 押されてるから体勢を立て直そう!」
それから、連理は指示を出した。
「了解した」
「分かりました」
「えっ私まだ動けな――うわぁっ!」
天音が未だ地面に突っ伏していた明里を引き剥がし、そのまま四人は後方へ駆けた。
しばらく移動したところで、立ち止まる。
「簡単な治療ですが、動けるようにはなるはずです――癒やし給え《ヒール》」
緑の光が明里の背中を包んだ。
「あうぅ、ありがと」
背中と脇腹を擦りながらも明里は起き上がる。
「どうやらボスも居るようですし、出し惜しみをしている場合ではなさそうですね」
言葉とともに、彼女の髪色が白銀に変化し、翼と光輪が出現する。
バサリ、と羽が舞った。
「あ、確かに〜。私もスキル使っちゃおうかなっ」
ショットガンをリロードしていた明里の頭にも、ひょっこりと犬の耳が生える。
二人のスキルにはクールタイムがある以上、ここぞというときに使うのが重要なのだ。
『天音さんかっけぇ』
「だ、そうだ」
連理はなぜかそのコメントを読み上げた。公開処刑のつもりだろうか。
「こほん! だ、だからなんなんですか?」
天音は恥ずかしそうに答える。
「ねぇ、ねぇ私は?」
自分の評価が気になったのか、キラキラした目で迫る明里。
『まあなんか……ひょっこりしてるなぁ』
『小動物感ある』
「らしいです」
「私だけなんか違くない⁉」
「これがキャラってヤツさ……」
驚愕する明里に、連理はキメ顔で呟く。
「意味わかんない……」
明里はどことなく不満げだ。
しかし、ゴーレムはもう迫ってきている。
「残り四体――か。明里、前線張れるか?」
「張ってみせるよ!」
問いに、前に出て元気よく答える明里。
『今のセリフはカッコいいかも』
「お、今のセリフは好評らしいぞ」
「え? ほん――あっぶな!」
後ろを振り返った直後、明里の横をゴーレムの拳が通り過ぎた。
しかし、間一髪で避けられたようだ。
『www』
「もう! これでも食らっといて!」
明里が顔にショットガンをブチ込み、さらに胸を拳で攻撃する。刃のついたグローブが強化スキル込みで突き刺さり、岩が砕けた。
「
続いて、零夜は詠唱を行う。彼も魔術は使えるのだ。
氷の釘のようなものが飛んでいき、ゴーレムに当たる。当たった場所には霜が残っていた。
それで仰け反った隙に近づき、斬撃を放つ。
魔法で冷えた体に、炎の斬撃。その高い温度差によって、相手の岩の体は脆く崩れ去った。
しかし、奥に妙なゴーレムが居た。それは全身が真っ黒な金属でできており、腕にも奇妙な装置が取り付けられていた。
そして、装置のある腕をこちらに向けていたのだ。連理のフラクティオパイルにも似た、何かを射出する穴のようなものが着いたその装置が、赤く光る。
明らかな危険信号。察知した天音が詠唱をする。
「っ! 堅固なる――」
が、間に合わない。
そして、次の瞬間。
轟音とともに赤色の弾丸が射出された。
それは零夜の居る場所に着弾し、地面をえぐった。
パラパラと地面の欠片が舞い、砂埃が巻き上がる。
連理は咳き込みながら、目を細めて辺りを見渡す。
「ごほっごほっ……あれ? 零夜! ……もしや死んだ?」
零夜の姿が全く見当たらない。一緒に跡形もなく吹き飛んでしまったのだろうか。
『威力えっぐ』
「いや、生きてるが」
「あ、生きてたんだ」
と、思ったらまだ元気だったようだ。どうやら、スキルを使ったらしい。
「――とは言え、かなりギリギリだったが。当たってたら危なかったな」
その横顔にはたらりと冷や汗が流れていた。
『あれ生き残ったのか。つおい』
『判断力ェ……』
その間に前線に出ていた明里がその隙に黒いゴーレムにショットガンを撃ち込み、殴りで追撃。
「硬いっ!」
しかし、それは軽く痕を付けるだけで致命傷にはなっていなかった。
相手のパンチを避け、一度退く明里。
『てかなんだこのモブ。見たこと無いぞ』
「確かに、俺も知らない敵だな。多分この隠しエリアにしか居ないってことなんだろうな」
連理が推測を口にする。
そして、その間に天音はその脇に居た普通のゴーレムの眉間に向かって、射撃を行っていた。
零夜が追撃し、ゴーレムを仕留める。
「氷結よ。我が名に応じて
さらに、こちらに来ようとする黒ゴーレムの頭に、天音が詠唱とともに放った弾丸が突き刺さる。同時に氷が展開され、黒ゴーレムは暴れ始めた。
「今です!」
「あ、なるほどね――じゃあいくか!」
連理に向けた天音のコールに対して、連理はサブステイシスを構えてチャージ。
相手の頭の氷が砕けると同時にそれは射出され、着弾した。
さらに射出と同時に走り出した連理は、自らの肘を相手に向けた。
「あばよっ! 《フラクティオパイル》ぅ!」
赤い閃光が敵の胸に向かって
貫通とまではいかないものの、大きくその胴体をへこませ、内部構造が露出した。
バチバチと電気が走っている様子は、先程までの魔導ゴーレムというよりは、機械的な何かに思える様子だった。
しかし、まだ余力があったのか、黒ゴーレムは連理を地面に叩きつける。
「えっまだ――ぐふあっ!」
変な声を出しながら連理が地面にめり込んだ。
見かねてか、後ろから出現した零夜が大きく露出した部分を短剣で斬りつける。
それが決め手となったのか、黒ゴーレムは前のめりに倒れ込んだ。
『めり込んでるやん』
『流石に全部一撃ではなかった』
『ナイス追撃!』
盛り上がるコメント。
――しかし、ゴーレムが倒れてきているということは、その体に二人が押し潰されそうということで。
「はっ!? あぶな――」
零夜は急いで連理を抱え、横に飛んだ。
「のわあっ! あ、あぶねぇ〜。助かったわ、ありがとう」
顔を砂埃と擦り傷まみれにしながら連理は感謝した。
「見過ごすわけにもいかないし、当然だ」
それから数秒後、新たなコメントが来た。
『助けて当然だ、とか人生で言ってみたいセリフベスト10には入るよな』
「だ、そうだ」
未だ地面に横たわったままの連理はそのコメントを読み上げてわざとらしく言った。
「う、うるさいな! 別に変な意味じゃない!」
頬を赤らめながら零夜が叫ぶ。
「あはは……ともかく、お疲れ様でした」
苦笑いを浮かべながら、天音が声を掛けた。
〜あとがき〜
凄い時間での更新ですが、まだ一時なので実質10/7ですよね。
……そういうことにしてください。
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