第44話 sideカエサル 抵抗㉒

時は遡りイズミル北東部での戦闘の直前。帝都防衛隊隊長のカエサルは第6歩兵師団の師団長ライト・デンカードらと作戦前最後の打ち合わせをしていた。


「それでライト大将。今回の戦闘はどんな予定だ?」


「今回の作戦では敵部隊に対して数の差を利用して戦闘を優位に進めるような形で進める手筈です」


「具体的に言うと?」


「まずは少数の部隊を使って敵の第1防衛線に展開している敵部隊を片付けます。そして混乱するであろう敵第2防衛線に対して戦車部隊を投入して、一気に防衛線を突破してそのまま戦闘を終わらせるつもりです」


「なるほどな。その作戦の最初に敵を攻撃する部隊というのは何なんだ?」


「通常の部隊を少しと周辺に展開した狙撃兵部隊で突破します」


「了解だ。それで私たちの部隊は何をすればよい?」


「カエサル様たちの部隊には戦車部隊に随伴してもらって敵陣に穴をあけることを担当してもらおうかと思っております」


「おぉ、それは良いな!それで行こう」


この国の貴族には軍の先頭に立って敵をなぎ倒すということが一番の名誉だと思っている者が多い。これは建国の際の戦争の名残でもう、今の軍人たちはそんなことは気にしないが貴族にはその古い感覚が残ってしまっているのだ。


さらにカエサルは実際に戦場というものを自分自身の目で見たことがない。もちろん命の奪い合いだということを知識としては理解しているが、魂がそれを理解できているわけではない。


だからこそ、一番損害が出る可能性のある戦車の随伴なんて役目を喜んでいるのだ。ただ、第6師団長ライトは純粋にカエサルのためを思ってこの役目を渡しているだけではある。決して悪意があるわけじゃない。


カエサル同様にライトも戦場に参加したことはあまりない。下っ端だったときはもちろん出ていたが階級が上がるにつれてどんどん戦場から離れていくようになり、今ではほとんどの仕事を部下に任せて自分は基地にて怠けていることが多い。


そんなライトには今の戦況を冷静に分析する力を持ち合わせているわけもない。すでにこの時第3、4歩兵師団と第8機械化歩兵師団がいなくなっていることを軍上層部は知っており、もちろんライトにも伝えられている。


しかし、それをライトは聞き流してしまっていた。本来ならば合流した可能性のあるその師団を警戒してまずは斥候なんかを放ち敵の規模を図るべきであったが彼にはそんなことを考える脳のスペックはない。


その結果自分たちが勝っていると思っていた人数でも負けてしまい、多くの兵を失うことになってしまうのはあとの話だ。

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