第9話 反旗⑨

カース・フィリップとは士官学校時代からの友人だ。代々海軍と陸軍は非常に仲が悪いことが普通なので異例なことだろう。


ただいくら長い間の友人だからといって陸軍総司令官の人物に簡単に会えるわけがない。そもそも陸軍の本部はブカレストにあるのでここからだと相当離れている。ということでまずは身近な基地であるイズミル海軍基地に向かう。


イズミル海軍基地は帝国の海軍基地の中でも有数の規模を誇っていて地中海艦隊の本拠地でもある。ただ懸念としてはおそらくすでに各基地に反逆者の情報が伝わっているだろう。となると基地内でとらえられる可能性がある。


ただここはリスクを取ってでも動くべき場面。俺はピョートルたちを引き連れて基地に向かう。


俺たちが基地に向かうとそこでは特に慌ただしく隊員たちが動いているということもなくいつも通りの状況だった。


すでに最高司令官という肩書は失ったも同然だが、こういう時は使えるものは使うに限る。門の警備をしている兵士に司令官と話がしたいというと門番は確認を取ってくると言って急いで基地内部に向かう。


少しの間待っていると先ほど走っていった門番が帰ってきた。彼は息を切らしながらも俺たちに司令官の職務室で待っているという旨を伝えてくれる。


敬礼をしながら見送ってくれる門番に別れを告げると俺たちはそのままの足で職務室まで向かう。さすがに室内にピョートルたちを入れることはできないので扉の前で待機をしてもらいながら、俺はノックをしてから中に入る。


「最高司令官、お待ちしておりました」


イズミル海軍基地の司令官でありながら地中海艦隊の司令官でもあるラファール・ライラック中将はそういいながら俺に敬礼する。


俺はそれに敬礼で返すと椅子に座る。


「それで、最高司令官、今日は何でしょうか?特にここでの任務などはなかったと記憶していますが」


「ラファール司令官、単刀直入に言おう。反乱軍に加わらないか?」


「…帝都からの電報は本当だったんですね」


「あぁ、そして俺はこれを機に国を変えなければならないと思っている」


「…それが修羅の道だとしてもですか?」


「未来に光がない道を進む気はない」


「…私はここイズミルで長い間司令官として兵士たちを見守ってきました。勝ったときも負けた時も兵士たちと共に過ごしてきました。老兵は死なずただ消え去るのみ。…とはいえただ消えるだけというのも少々味気ない。…そのための最後の贈り物として悪くないでしょう」


こうしてイズミル海軍基地は反乱軍の一員として戦いを始めることになる。

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