Prologue2
家から20分程歩いて市場に着いた俺は、自分が経営している店で使う食材を買うために、行きつけの表通りのお店をぶらぶら回っていた。今日がたまたま祝日だったこともあってか、市場には家族連れや若い年代のグループなど普段よりも多くの観光客が訪ていて、いつにも増して賑わっていた。
そんな中俺は人混みを避けながら行きつけのお店を回っていると、街の知り合いの何人かとすれ違って声をかけてくる。
「あら~フォルテさん久しぶり~次のお店の営業日決まったら教えてくださいね~」
「良い商品入ったから見ていってくださいよフォルテさん」
「フォルテさんこの前は助かりました。ありがとうございます!」
街の評判はたしかにあまり良くはない、だが住んでいる人たちは基本的にいい人たちだ。
俺がここに来て早一年経っているが、よそ者でも親切にしてくれるのは本当に助かっている。俺は声をかけてきた街の人たちに軽く挨拶しながら買い物を終わらせて自分の店に向かって歩きだす。
「今日は弾薬はいらんのか?」
歩いてる最中不意に、横を通りかかったお店の老婆に声をかけられた。
「今日は何も買わないよバーバラ婆ちゃん」
俺は自分の店に向かっていた足を止め、老婆の方に近づきながら言う。彼女はバーバラ、アメリカ人の彼女はここでタバコ屋を営みながら武器や弾薬も隠れて売っている。俺の行きつけの店の1つである。
「タバコもいらないのかい?」
「バーバラ、いつも言ってるだろ…俺はタバコをやめたって」
「じゃあこれはどうだい?」
バーバラはカウンター下をゴソゴソ漁りながらm84スタングレネードを出してきた。
「んー……分かった一個買っていくよ」
何か買わないと解放してもらえないと思った俺は、渋々出されたm84スタングレネードを一個だけ購入した。
「ヒヒッ毎度あり、買ってくれたフォルテには1つ新鮮な情報を提供してあげよう」
「新鮮な情報?なんだそれ?」
m84スタングレネードを袋に包みながらそう言ったバーバラに、俺は眉をひそめる。
「あんたは最近街の方に降りてきていなかったから知らないだろうが、3日前くらいから妙な特殊部隊が街で確認されている。なんでも人を探しているらしい。黒髪で顔の左側に傷のある左腕の無い男……だそうだ」
「随分と条件が限定的じゃないかそれ?どうしてそんなこと知っているんだ?」
「3日前にガスマスクをつけたその部隊が私の元を尋ねてきたんだ。「フォルテ」という男を知らないかってね。適当にあしらっといたけど、あんた、またなんかやらかしたのかい?」
「またって言うなまたって……身に覚えは無いけど、まあ気をつけるよ」
俺はバーバラに背を向けてタバコ屋をあとにする。
全く────
嫌なことを聞いてしまった。俺を狙う謎の特殊部隊か。ギャングや犯罪者に逆恨みされるならまだ分かる、だが、特殊部隊を送られるようなこと、例えば国自体に喧嘩を売ったことなど滅多にないし、ここ最近は大人しくしていたので正直全く身に覚えがない。黒髪で顔に傷のある左腕のないフォルテさんが俺以外にいれば助かるんだけどな…
(どちらにせよ、しばらくは家から出ない方が良さそうだな。買ってきたものをお店にしまったらさっさと帰るか)
そんなことを考えてるうちにお店にについた。表の市場の賑わいと違って人気の無い裏路地を進んで突き当りにある店が俺の経営している珈琲カフェである。店名を「BLACK CAT」と言い、基本的にお客さんは常連さんのみという知る人ぞ知るお店になっている。席はカウンター席とテーブル席に分かれており、木材の茶色を基調とした店内は和モダンな雰囲気となっている。
俺は買ってきた食材を冷蔵庫に入れつつ、自分用に1杯コーヒーを淹れる。今日は元々お店を開く気は無かったので(営業日は気分で決まる。)適当にカウンター席に座って淹れたコーヒーを飲む。焙煎の浅い豆を使って淹れたアメリカンコーヒー、我ながら美味い。
コーヒーを右手で飲みつつ、俺は左肘から先の義手を見つめる。こいつは俺が左腕を無くしてからしばらくして自分で作成したもので、俺の生活に欠かせないものだ。外見はできる限り人間の皮膚に近い見た目になっており、内装は特殊な金属で頑丈にできている。動きも脳波を読み取って動いているため、普通の人体と同じように動かすことができ、さらに内部の電気モーターなどの音が聞こえないよう調整を加えてあるので作動音もほとんどしない。もちろん完全防水、完全防音の最高傑作である。ただ問題としては、義手なので物に触れた時の感覚が分からないことと、作るのに莫大な時間と費用がかかるということだ。
コーヒーを飲み終えて俺は食器を片付けて店を出る。本当だったら今日は適当に市場をぶらぶらして掘り出し物でも探したい気分だったが、さっきのバーバラの情報もある。まだ時間も午前10時と早いが俺は大人しく丘の上の家に帰ることにした。
裏路地から人混みで賑わっている表市場の方に戻る。強い日差しに照らされて思わず右手で顔を覆う。この街自体に高い建物は少ないのと、表市場は海岸沿いにあるため日当たりがよく、裏路地から出てすぐだと眩しすぎるくらいだった。
(高い建物もあそこくらいだしな)
俺は街で一番高い建物に目をやる。市場から大体1kmくらい離れたところに建っている30階建の超大型の高級マンションだ。なんでも都内に住む有名人が別荘として使うのに人気らしく、住民の中には、有名メーカーの社長さんや大物芸能人、果ては政治家までもが住んでいるらしい。
誰が住もう正直どうでもいいが、この街の雰囲気に全然合わないその悪趣味な建物を俺は何気なく見る。
(あれ、屋上に誰か────)
屋上にいる2人組みがこっちを見ていた。いや、正確にはこちらを見ていたのではなく、狙っていた。
ピカッ
「ッッ!?」
屋上の小さな光のを見て、俺は思考が判断するよりも先に反射的に振り返ったが、ものすごい衝撃が頭に走り、血が吹き出す。
「うっぐ……!」
「キャァァァァ!!」
人が撃たれたことで周りの一般人が悲鳴を上げてその場から逃げようとするなか、俺は頭の衝撃とともに地面に大の字に倒れた……
「隊長、ターゲットが現れました」
スポッター兼スナイパーの隊員が、路地裏から表通りに帰ってきたターゲットを捉えて報告してくる。
「うん、こっちも捉えてわ」
ようやく現れたターゲットにアタシは狙いを定める。
「射距離1034m、風は左から3m」
高さ、風、ターゲットの移動速度から誤差を修正する。
「捉えたわ」
トリガーに指をかける。ターゲットは日差しが眩しいのか、顔を手で覆う動作をしている。
「いつでもどうぞ」
「スゥゥゥゥゥ…フゥゥゥゥゥ…」
アタシは息を吐いて呼吸を整えて狙いを定める…
「ッッ‼︎」
男がこっちを見た‼︎
バンッ!!
アタシは一瞬驚きながらもL96A1のトリガーを引き銃弾を放った。
7.62x51mm NATO弾はただ真っ直ぐ、男の額に目掛けて飛んでいく。
そして……
「ヘッドショットヒット、ターゲットダウン」
「ふう…
アタシは無線でターゲットの近くで待機していた2人の隊員に命令する。
「…こちら
それを聞いてアタシは改めてスコープで確認する。狙撃されたターゲットの周りでは、いきなり人が撃たれたことによって混乱した一般人が四方八方に逃げている様子が目に取れた。
「スコープ越しで見ているけどこっちも確認できないわ…一般人がいなくなったところで対象を確保して、
「
それを聞いてアタシはインカムを外して、使っていたスナイパーライフルをアタッシュケースにしまう。狙撃したとこを警察にでも見られたらあとが面倒なので急いで片づける。
「あの距離を1発とは…流石です隊長」
「別に風もそこまで無かったし、ターゲットも足を止めていたから当てて当然よ。それよりもアーノルド、あなたも早くしなさい。日本の警察は結構面倒だって聞くし、急ぐわよ」
「了解です」
アタシは狙撃手として完璧な仕事をした。だが手応えはあったはずなのになぜか妙な胸騒ぎがしていた。
「ねぇ、アタシがターゲットを狙撃した時なんか妙な感じしなかった?」
「いえ、全く感じませんでしたが?」
アタシの問いに横でスポッターをしていたアーノルド隊員はキョトンとして答える。
「アタシ、ターゲットを撃った時にスコープ越しに目が合ったの。その時、右眼が少し赤く光ったように見えたのよね…」
「??よく分かりませんが、ターゲットの血が飛び散って光ったように見えたのではないですか??」
「そうだといいのだけれどね。まあ弾は頭に当たってたし血も出てたから多分大丈夫でしょうけどね」
そうアーノルド隊員にアタシが言った時だった。
「至急至急!こちら
耳から外していても聞こえるほどの声量で、インカム越しに
「こちら
アタシはインカムを再び付け直して返事をした。
「ターゲットロスト!繰り返すターゲットロスト!」
「なっ!?」
ヘッドショットしたはずのターゲットがロスト?アタシはインカム越しに聞こえてきた言葉の意味が分からず驚愕した。
「血痕からマンホールに逃げ込まれたと推測されます」
「
アタシは
「
アタシはインカムを外し、急いで荷物をまとめる。
(確かに頭に当てたハズなのに…やはり一筋縄じゃいかないわねフォルテ・S・エルフィー…)
アタシはL96A1をしまったアタッシュケースを背負い、アーノルド隊員と一緒に急いでビルを降りていく。
(絶対に逃がしてなるものですかッ)
手負いの獲物を仕留めに行くために。
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