第30話:リョウマ・サカガミ



「それで?身の上話をする為に俺達をここへ呼んだのか?」


「いや、違う。私の目的はこれをお前達に渡すことだ」


そう言って、リョウマが何もない空間に右手を翳すとそこから金色に輝く兜が現れた。


「これは私のが作ったものだ。私はこれを手に入れた日から、今日に至るまでずっと手元で保管していた……………託すべき人物が現れるこの時まで」


「「「「「っ!?」」」」」


リョウマの言葉に驚く俺達。彼の発する言葉からはまたもや色々な感情が溢れ出てくるようだった。


「私はこの世界にやってきて、すぐにその友人と逸れた。そして、その後、友人がどうなったのかは分からずじまい。幸い、私と友人の手には向こうの世界で愛用していた刀が握られていた。だから、たとえこの厳しい世界でもあの友人ならば……………あいつならば、何とかやっていけていると思った」


「……………その友人はお前にとって」


「かけがえのない大切な友…………親友だ。こうしている今でもあいつの安否は気になっている………………だが、おそらく生きているという望みは薄いだろう。私は生きていれば、96歳。あいつも同い年だからな」


「そもそもお前は何故、亡くなった?」


リッチ・エンペラーとは自然発生するような魔物ではない。噂によると類い稀なる強者かビオラのような特別な人族、それ以外でも何か普通とは違う種族の者が亡くなった場合にリッチ・エンペラーとなるらしい。それでいくと異世界人という特殊な者がそうなっても何らおかしくはないのだ。


「私は……………ただただ弱かった。そもそも友人と逸れたのも警戒の為、少し先を見てくると言って……………ぐっ」


そこで辛そうにするリョウマ。どうやら過去のことが相当なトラウマとなっているようだ。そこで俺は辛いなら無理はしなくていいと言葉を掛けようとした。しかし……………


「私は……………奴隷商に捕まってしまったのだ」


「っ!?」


辛そうにしながらも懸命に言葉を絞り出したリョウマ。そこからは何としても自分の身に起こったことを伝えなくてはという強い意思を感じた。


「通常、奴隷商とは仲介人に金銭を支払い、その仲介人が村などに行って、そこで奴隷を合法的に手に入れ、奴隷商へと引き渡すというシステムで成り立っている。しかし、ごく稀に山や森などの人目につかない場所で歩いている者を無理矢理、捕まえる悪徳な奴隷商もいるんだ。私はそれに運悪く捕まってしまったのだ」


「………………」


「そこからは地獄の日々だった。衛生環境は最悪で飯を食べさせてもらえないことなど日常茶飯事…………おぉ、そうだ。腹いせに殴られたり蹴られたりしたこともあったな」


「………………」


「そんな日々が続いたある日、私は1人の貴族に買われた。その貴族は一見するととても物腰が柔らかく優しそうな貴族で私はこれで助かると大いに喜んだ……………しかし、そんな甘い幻想はすぐに打ち砕かれた。その貴族は裏表の激しい人物だったのだ。家族や親戚、友人達にはとても良い顔をして、裏では私に対し暴力を振るっていた。何か気に食わないことがあると呼び出され、殴られる。テンションが上がると呼び出され、蹴られる……………そんな毎日だった。それがどのくらい続いた時か……………気が付けば私の手には見覚えのある刀が握られていた。それはこちらの世界へとやってきたあの日、手元にあったのと同じ刀だった」


そう言って、左手を翳すとそこからは一本の刀が現れた。


「この刀からは強い意思のようなものが感じられるんだ。そして、それは常に私のことを守ろうとしてくれているということが分かる。奴隷商に捕まった時は姿を消し、いずれ私が力を求める時に現れるつもりだったのだろう……………気が付けば私は刀へと手を伸ばし、いつも通り痛めつけてくる貴族に向かって、その刃を振り下ろしていた」


リョウマは過去の行いを悔いているのか、まるで苦虫を噛み潰したような表情をしていた。


「そこからはひたすら走り、走り、走った……………誰も私を虐げず束縛せず、穏やかに暮らせる場所を目指して……………しかし、その途中で私はこの兜を持つ者によって殺されてしまった…………そして、その直後だ。私がリッチ・エンペラーとなったのは」


「そんな経緯があったのか」


「リッチ・エンペラーとなった私はその場で兜を持った者を亡き者にし、新たに手に入れた固有スキル"迷宮製作者ダンジョン・メイカー"によってダンジョンを作り、その最奥にて、この兜を託すに相応しい者が現れるまで待つことにしたのだ」


リョウマはそう言いながら、兜を俺に向かって差し出してきた。


「シンヤ・モリタニ……………お前こそ、私が長年待ち侘びた人物だ。どうか、この兜を受け取って欲しい」


「…………お前の親友のなんだろ?本当に俺が受け取ってしまってもいいのか?」


「長年、このダンジョンで多くの冒険者達を見てきた私の直感が告げている。シンヤは何かが違うと……………それにどうやら、私の愛刀もお前を気に入ったようだ」


リョウマの言葉に呼応するかのように彼の左手に握られた刀が震えた。


「分かった。受け取ろう」


「頼む……………それとこの刀も共に連れていってはくれぬか?」


「……………分かった」


俺は兜と刀を受け取った。それらは見た目の重さだけでなく、彼の想いも一緒に乗っているような気がした。


「兜に名前が彫られているだろう?それが本物であるという証だ」


「……………確かにな」


兜のしころと呼ばれる部分に小さく彫られた名前……………それを見た俺は軽く頷いた。


「他に訊きたいことはあるか?」


「……………ダンジョンを固有スキルで作ったと言ったが、この世界にある全てのダンジョンもお前が作ったのか?」


「いや、それはない。他のダンジョンは私のようなスキルを持った者、それか神だ」


「っ!?」


「私もただただこの世界に圧倒されて、アワアワしていた訳ではない。もちろん、私がここへとやってきた要因やこの世界のことを色々と調べ、考えてきた。そこで分かったことが2つある。1つ目、おそらく私と親友は神の力によってこの世界へやってきた。そして、それは誰でも良かった訳ではないということ。2つ目、例えばダンジョンや魔物などという、何が原因でいつ現れたのかも分からないものは神が関与している可能性が高いということ…………だ」


「つまり、俺がこの世界へとやってきたのも何かしら神の意思が関与している可能性があるということ、そして今後も神が関与してそうな場所を巡っていけば、色々と分かってくるということか」


「そういうことだ。お前からは特に強い何かを感じる。それはそこにいるお仲間さん達も感じていることだろう。きっと、シンヤがこの世界にやってきたことで変化したことも多かろう」


「「「「「はい!!!!!」」」」」


元気よく返事をするティア達。俺としては恥ずかしいから、かなりやめてほしい。


「さて……………これで私の役目は終わりだな」


「ありがとう………………色々と」


「私の方こそ、ありがとう。久々に生きている人間と話せて楽しかったよ」


「お前の親友に会ったら、必ず伝えておく……………リョウマ・サカガミは死ぬまでずっとかっこいい奴だったってな」


「ふっ。そうだろう?」


そう言って、リョウマは徐々に身体が灰となって消えていった。それとほぼ同時にこちらに向かって会釈をしながら、カタストロフも消えていった。その口元は何かを呟いていたようにも見えた。


「っ!?こ、この音は何っ!?」


そして、彼らが消えた直後、ダンジョンは凄い勢いで振動を始めた。それに驚いたビオラが大きな声で叫び出す。


「主がいなくなったことでダンジョンはその機能を停止したんだろう。いずれ、ここは崩れてなくなる。よし、お前ら!ここから、出るぞ!!」


その後、俺達は魔法を使ってダンジョンの外へと転移した。後ろを振り返るとちょうど大きな音を立ててダンジョンが崩れ落ちたところだった。


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