第28話:ダンジョンの主



「こちらでございます」


"カタストロフ"と名乗った魔物?に案内された俺達はセーフティーゾーンに出現した抜け道のようなところを通って、真っ直ぐ進んだ。すると数分後には最奥へと辿り着き、結果としてそれはショートカットをしたことになった。


「………………」


そこはセーフティーゾーンの半分ぐらいの大きさの一室で真ん中に何かがいる以外は特に何もない空間だった。しかし、その何かが大問題だった。


「"リッチ・エンペラー"か」


それはリッチの中でも幻と謳われた種であった。たとえ高ランクのどんな冒険者に聞いたところで今まで見てきた中での最上位はリッチ・キングと言われる程。リッチ・エンペラーはその1つ上であった。


「よくぞ、おいでになった……………異世界の選ばれし者よ」


「…………えっ」


この中で唯一、俺の素性を知らなかったビオラだけがその言葉に驚いた。しかし、俺達が驚いたのはそんなことではなかった。


「何故、お前がそんなことを知っている?」


今更、魔物が喋ったところで驚きはしない。知性のある魔物が話せることなど常識だ。問題はリッチ・エンペラーの言葉の内容である。奴は俺の目を見て、はっきりとそう言った。つまり、それは何か確信に近いものを感じて俺を名指ししたのとほぼ同義。逆に言えば、アスカやサクヤのことはまだバレていないということに………………


「おや?そちらのお嬢さん2人もそうか」


ちっ。ここまでくれば、当てずっぽうとは言えなくなってしまった。結果として、完全に出鼻を挫かれた形となってしまったのだった。


「質問に答えろ。何故、俺達の素性を知ってるんだ?」


「その質問に答える前にまずは自己紹介をしよう。私の名は"アポカリプス"。このダンジョンの主をしている者である」

 

「…………シンヤ・モリタニ。冒険者をしている。そんでこいつらは俺の仲間達だ」


「ふむ。見たところ、かなりの強さ……………それも常軌を逸しているな。どうやら、ただの冒険者達ではないようだ」


「………………」


「おっと、これ以上待たせていては流石に不信感を募らせてしまうか………………え〜っと、私がそちらの3人の素性を知っている理由だったな」


「ああ」


「それは私の固有スキルが関係している」


「どんなだ?」


「"同胞共鳴シンパシー"……………これは視界に収まった者が同郷かどうかを判断できるというスキルだ。もしも、同郷の者がいた場合はその者が赤く表示される」


「視界か……………だが、おかしいな。俺達をここに連れてきたのは俺が同郷だと判断できたからだろ?とはいっても俺がお前の視界に入ったのはここに来た瞬間なはず。それだと時系列的な矛盾が生じる」


「"視界共有コムパウンド・アイズ"。このもう1つのスキルによって、私はこのダンジョン内ならば、あらゆる階層をここにいながらにして見ることができるんだ」


「………………聞いた限りだとダンジョンの主であるお前にピッタリなスキルだな」


「ああ。今となっては本当に良いスキルを授かったと思っている」


「さて…………質問の答えが分かったところでを聞こうか、リッチ・エンペラー」


「はっはっは。これは立場が逆転だな。やはり、気付いていたか」


「当たり前だろ。もしもお前がこの世界の出身者だとするのなら、"同胞共鳴シンパシー"とやらは不便すぎる。なんせ四六時中、視界が赤く染まることになるからな」


「同郷というのが世界単位ではなく、都市や街単位でというのなら、辻褄は合うんじゃないか?…………えっ?同じ街出身なの?イエーイ!……………みたいな」


「そんなスキルに何の意味がある?」


「はっはっは。それはそうだ」


そこで軽く咳払いをしたリッチ・エンペラーは居住まいを正すとこう言った。


「では改めて、自己紹介をしよう。生前の私の名は"リョウマ・サカガミ"…………70年程前にこの世界に迷い込んでしまった異世界人だ」


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