第18話:金鎧



金鎧きんがいかぶと?」


「うん。稀代の天才鍛冶師"クニミツ"によって、製作された金鎧シリーズの1つで他には籠手・胴・脛当てがあるんだ」


「へ〜……………で、その兜とやらがうちにあると聞いたのか。ちなみに誰からだ?」


「とある街の冒険者だ」


「なるほどな……………先に言っておくぞ。悪いが、お前の求めているものはここにはない」


「……………えっ」


「大方、偽情報を掴まされたんだろうな」


「で、でもっ!その冒険者はクラン"黒天の星"が兜を所有してるかもしれないと」


「"かもしれない"って言われてるじゃねぇか。多分、色々と話題の尽きない俺達ならば、持っていると踏んだんだろうな」


「そ、そんなぁ〜……………ちゃんとお金まで渡してたのに」


「やっぱりな。いいか?冒険者の中にはそうやって、お前みたいな甘ちゃんを使って金を稼ぐ奴もいる。だから、慎重に取引しなければならない」


「………………」


「とまぁ、言ったところで過ぎたことだがな………………ちなみにその兜を手に入れて、どうするつもりだったんだ?」


「兜・籠手・胴・脛当て……………その全ての金鎧を集めた者には何でも1つだけ願いを叶えることができると言われているんだ」


「なるほどな。お前には叶えたい願いがあると」


「うん!!」


その返事はこれまで聞いたどの声よりも大きく使命感に満ち溢れたものだった。


「絶対に……………絶対に見つけてやるんだ」


「……………それにしてもそんな凄い代物があるとはな。ティア、バイラ。お前らは知ってたか?」


「いいえ。聞いたことがありません」


「ウチも」


「そうか。ブロンは?」


「風の噂で少し聞いたことがある程度じゃ。だが、本当に存在するとはのぅ………………そしてまさか、ビオラが知っておるとは」


「つまり、ビオラはブロンから、そのことを聞いた訳ではないということだな……………お前、家を飛び出してからの6年間で一体何があった?」


「……………」


俺のその質問に対しては一切口を閉ざし、答えようとしないビオラ。俺はその様子を見て、こう口にした。


「まぁ、無理に答えなくていい。じゃあ、質問を変えよう……………ちなみにいくらまでなら出せる?」


「………………へ?」


「何を素っ頓狂な声出してんだ。仮に兜がここにあったとして、いくら出せるか訊いてるんだよ。まさか、タダで譲ってもらうつもりだった訳じゃないよな?」


「で、でもここにはないんだよね?だったら、答える必要は……………」


「ある。確かにモノはないがその在処を探ることはできるからな。うちには仲間も多いし、最悪お前1人の為に軍団レギオンを動かすことだってできる。それと俺が頼めば、ギルドだって協力……………してくれるよな?」


「も、もちろんじゃ!」


「っ!?そ、そうなったら」


「もしかしたら、見つかるかもな」


「ほ、本当に!?」


「ああ。うちには元情報屋もいるから、期待してもいいと思うぞ」


「ゴクリッ……………え、えっと……………じゃあ」


「そこから先はよく考えて発言しろよ?ここは交渉の場だ。お前の言葉1つでこの話がなかったことになるかもしれない」


「うっ」


「別に大袈裟に言ってる訳じゃない。常に相手の顔色を窺いながら、気持ちのいい交渉をする。これは商談の基本だ。取引相手に逃げられたら、元も子もないからな。じゃあ、そこら辺を踏まえた上で……………第一声は?」


「………………金貨10枚」


「話にならん。帰れ」


「っ!?な、何でさ!!」


「お前はアホなのか?お前1人の為に軍団レギオンとギルドが動くかもしれないって言っただろ?その人件費や雑費、その他諸々に一体いくら、かかると思ってんだ」


「で、でもそこまで頼んでないし」


「少ない人数や規模だったら、望みは薄い。お前の提示した金額でいったら、うちのメンバーを数人だけ、それもせいぜい1時間程度しか動かせないだろう。それで見つからなかったら、どうせもっと規模と人数を増やせってなるだろ?だったら、最初から大規模で捜索した方がよっぽど効率がいい。大は小を兼ねるからな」


「………………」


「そこまで考えるとお前の提示した金額がいかに安いか分かるよな?」


「ビオラ。分かるか?これはボランティアではないのじゃ。シンヤ達のメリットといえば、当然お前からの報酬じゃろう。だが、金貨10枚などシンヤ達からすれば、一瞬で稼げてしまう金額なのじゃよ」


「そ、そんなにシンヤ達って凄いんだ」


「だから、言ったじゃろ。お前が今まで相手をしてきたのとは比にならんと」


「………………」


「だいたい、お前分かってるのか?その兜とやらは揃えれば願いが叶うモノの一種なんだろ?お前の感覚でいえば、それが4つだから、金貨40枚。つまり、たったそれだけで願いが叶えられると言ってるのと同じことだぞ」


「………………」


「もしも俺達が兜を見つければ、それは元々所有していた兜をお前に渡すのと何ら変わらない。つまり、お前にとっては探してもらうのも金貨10枚、兜を譲り受けるのにも金貨10枚、そして残りのにも金貨10枚ずつ……………お前にとって、願いを叶えるということはその程度のものなのか?」


そこから、ビオラは俺の言葉にしばらくの間、黙り込んだままだった。しかし、それも数分すると突如、終わりを迎える。彼女は先程とは打って変わって、覚悟を決めたのか真っ直ぐと俺を見据えてこう言い放った。


「それでもぼくは引き下がる訳にはいかないんだ!!」


「……………お前の事情は分かった。なら、こうしないか?」


「?」


「金で駄目ならば、力で証明すればいい……………もしも俺の用意した対戦相手にお前が勝てば、タダで引き受けてやる」


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