第16話:アルビノ
「こやつの名はビオラ・レジスターじゃ。改めて、よろしくのぅ」
すっかり親子喧嘩も落ち着き、腰を据えた俺達はビオラを紹介してもらった。これがその辺のよく知らん奴ならば、興味も湧かなかったが、ブロンの関係者……………それも娘ともなれば話は別だった。
「俺はシンヤ・モリタニ。冒険者をしている。よろしくな、ビオラ」
「同じく冒険者をしているティア・モリタニと申します。よろしくお願い致します、ビオラさん」
「ウチはバイラ・モリタニ。よろしくアルよ、ビオラ」
「………………よろしく」
まだ先程のことが尾を引いているのか、顔を赤くして、そっぽを向きながら挨拶するビオラ。それに対して、また何かを言おうとしたブロンだったが、俺はそれを手で制すると代わりにこちらが話題を振った。
「にしても親子なのに全然似てないな。ブロンと違って、ビオラは髪とか目がやけに特徴的だし」
ビオラに喋らせるとまたブロンが何か言うかもしれない為、俺はあえてブロンに向けて話をした。
「あぁ。なにせ、ビオラは"アルビノ"じゃからのぅ」
「アルビノ?」
聞き慣れない単語が出てきた為、俺は思わず聞き返した。
「人族と人族の間にごく稀に生まれてくる種でな、髪が半分ずつ違う色をしているのが特徴じゃ。色はそれぞれ個人差があり、ビオラの場合はこうなった。あと、ビオラは髪だけでなく、瞳の色もそれぞれ違う。これを"アルビノダブル"という。アルビノダブルのことはほとんどの文献に載っておらず、あまり詳しいことは分かっておらん。それほど稀少なのじゃ」
「なるほどな……………ちなみに人族と人族ということは別の種族と人族の間からはアルビノは生まれないのか?」
「ああ。それと他の種族同士、例えば……………獣人族と獣人族の間からもアルビノは生まれん。純粋な人族同士の間からのみじゃな」
「へ〜……………あれ?そもそもなんだが、お前に娘がいるなど聞いたことがないぞ。以前、息子がいたことならば聞いたが」
「ああ。それはな………………」
そこでゆっくりと深呼吸をしたブロンはこう言った。
「こやつが実の娘ではないからじゃ」
「24年前、ワシはとある場所で捨て子を拾った。茂みの中に置き去りにされたその子はか弱い声でしかし、必死に生きようと一生懸命泣いていた。そして、その側には置き手紙があり、中には"誰か拾って下さい。名はビオラといいます"と書かれていた。ワシはその身勝手さに対して、激しい怒りを感じると共にこの子を絶対に守り抜いてみせると誓い、自身の娘として育てることを決めたんじゃ」
「なるほどな。まぁ、そんな娘とは絶縁してしまった訳だが」
「うっ……………6年前にビオラに実の親子ではないとバレてしまったんじゃ。それでショックを受け、怒りを感じたビオラと喧嘩をしてしまってな……………それでビオラは"絶縁だ!!"と言って、家を飛び出してしまったんじゃ。ワシも大人気ないことにあの時は怒りでつい、"うちの子が嫌なら、他所へ行け"と言ってしまったんじゃよ」
「何故、本当のことを言わなかったんだ?」
「怖かったのじゃ。ワシとは血の繋がりがないことが分かってしまえば、ビオラはワシを置いて、本当の両親を探しに行ってしまうかもしれない……………そう思うと言えなかった。だが、そのせいで大喧嘩をしてしまい、結局ビオラは家を飛び出してしまった。今、思えば正直に打ち明けておれば良かったのじゃ。情けない話じゃのぅ」
ブロンがそこまで言うとそれまでただ黙って聞いていたビオラがゆっくりと口を開いて、こう言った。
「本当だよ。血の繋がりがあろうが、なかろうがそんなものはどうだっていい。大事なことはただ1つ……………ブロンがぼくにとって、この世でたった1人の父親だってことさ」
「ビオラ…………」
ビオラの言葉を受けて、感極まった様子になるブロン。そんなブロンに対して、優しい瞳を向けたビオラは徐に頭を下げた。
「お父さん、今まで意地張っててごめんなさい!こんなダメダメなぼくだけど、仲直りしてくれると嬉しいです!!」
ビオラからの謝罪の言葉。それを噛み締めながら聞いていたブロンはビオラ同様、彼女に頭を下げて言った。
「こちらこそ、酷いこと言ってすまんかった!!是非、仲直りをしてくれぃ!!」
この一連の流れを見ていた俺達は全員で顔を見合わせた後、微笑んだ。そして、ほぼ同時にテーブルの上のティーカップへと視線を送る。
「……………」
その後、この場の雰囲気を壊すまいとゆっくりと音を立てずに部屋から出ていくバイラ。気が付けば、紅茶はとっくに冷めていたのだった。
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