第15話:喧嘩


「何が娘だ!お前なんか、父親でも何でもない!!」


ブロンの発言を受けて、勢いよく立ち上がりながらそう言うビオラ。その顔は怒りに染まっていた。


「ワシも本当はそう言いたいぐらいじゃ。なんせ、ワシらはとうの昔に親子の縁を切っておるからな。本来なら、お前がどこで何をしていようが、ワシは一切興味がないし、関与せん。だが、それはあくまで口頭上のもので正式に書類を交わした訳ではない。だから、お前が何かやらかした時はワシが頭を下げねばならんのだ」


「そんなの必要ない!だって、ぼくは今まで自分のケツは自分で拭いてきたんだ!だから、今回も同じことだ!」


「同じではないんじゃ!今回のは今までお前が相手にしてきたのとは比にならんぐらいの相手なんじゃ!」


「は?何がそんなに違うっていうんだよ!確かにここにくるまでで噂はちょいちょい耳にしたけど、ギルドに少し顔が効くって程度だろ?」


「ビオラ……………これ以上、彼らを侮辱することはこのワシが許さんぞ」


「っ!?だ、大体この年齢になって、それもお前なんかに出てこられたら、こっちが迷惑なんだよ!ぼくは1人で何とかする。今までだって、そうやって……………」


「よし……………そこまでだ」


俺がそう言って、ブロン達の会話を中断させると彼らは真っ直ぐ、こっちを見てきた。


「まず、お前らの間に何があったのかは置いておくとして………………ビオラ、俺にはこれ以上、頭を下げなくていい。だが、その代わり……………ブロンに誠心誠意、謝罪しろ」

 

「は?」


「お前が本当に自分のケツを自分で拭ける奴ならば、ブロンは何故、血相変えてここまで走ってきた?」


「………………」


「やってしまったことはもう仕方ないとして、問題はその後だ。俺達に詰められている時にしっかりとした謝罪と対応ができていれば、ブロンが入ってくる前にこの一件は済んだかもしれない。だが、お前の様子をさっきから観察していた俺達から言わせれば、お前のそれはあまりにもお粗末なものだった。はっきり言って、世間知らずな子供。その態度で今までやってこれていたことの方が不思議なくらいにな」


「うっ、それは」


「ブロンがこの部屋に入ってきた時点でお前はもう負けてるんだよ………………あとな、絶縁してるとか言ったけど、本当にお前のことが憎くて嫌いだったら、あんな必死に走ってくる訳ないだろ」


「な、何でそこまで言われなきゃいけないんだよ!お前にとって、こいつはなんなんだよ!!」


「父親だ」


「へ?」


「ブロン・レジスターは俺にとって、父親だ。絶対に失いたくない、かけがえのない……………な。そんな存在が目の前で貶されているのを見て、黙っていられるか」


俺が鋭い表情で睨み据えながら、ビオラへ向かって言うと彼女の方はそれ以上の形相でこっちを睨み返してきた。


「撤回しろ…………こいつの……………ブロン・レジスターの子はこの世でぼくただ1人だけだ!!」


俺はビオラのその様子を見て、確信した。


「仮面が剥がれたな……………やっぱりお前ら、似た者親子じゃないか」


「っ!?」


俺がニヤリとした笑みでそう言うと顔を真っ赤にしながら、睨んでくるビオラ。これはこれで可愛いな。


「で?"口だけ絶縁親子"が何の用だっけ?」


俺とティア、バイラのしてやったり顔に対して先程の喧嘩の手前、彼らは顔を赤くしたまま、ただ俯くことしかできないのだった。

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