第346話 神
「"運の女神フォルトゥーナ"?」
「ええ」
「……………ん?ちょっと待て。"
「察しの通り、そこから取ったのよ」
女…………フォルトゥーナの言葉に安直だなと感じるシンヤ。一方のティア達は"神"というだけでは説明がつかない彼女の傑物さに未だ警戒心を保ったままでいた。
「あれはどのくらい前だったか……………人間界に興味のあった私は"地球"という星に目をつけ、そこに降り立った。その際、名前の1つでもないと不便だったから、適当につけたのよ………………あなたのお父さんと出会ったのもそんな時ね」
「………………」
「人間界に降りたばかりの私は右も左も分からないことばかり。そこで近くを通りかかる人の中で気になる人がいれば、その人に着いていこうと思ったの………………キョウヤもそんなうちの1人だった。初めて見た時から、この人はなんて綺麗な心の持ち主なんだと驚いたし、感心もしたわ。でも、どうせ私の心を動かす者なんている訳ない。そんなことできっこないって……………思ってた」
フォルトゥーナはキョウヤが昔話をした時と同じような表情をしていた。すると、それを見たシンヤはやはり夫婦だなと感じた。
「でも、キョウヤはすごく面白いし、何より優しかった。一緒にいて、とても楽しかった。そして、一緒に過ごしているうちに気が付けば、お互いの存在がなくてはならないものとなっていた……………いつからか、私はキョウヤを愛してしまった」
「………………」
一切茶々を入れることなく、話を聞くシンヤ達。それだけフォルトゥーナの話に興味がある証拠だった。
「神と人の恋愛は私達にとって御法度だった。仮にそうでなかったとしても上手くいくはずがない。私と彼は文字通り、住んでいる世界が違っていたのだから。私はいずれ天界へと帰らなければならない。しかし、私達の気持ちは止められなかった。"愛する"ということはそういうことだった………………そして、気が付けば、私はシンヤを身籠り、出産していた」
今のところ、キョウヤから聞いていた話と差異がない為、フォルトゥーナを嘘つきだと決めつけるようなことはしなかった。しかし、少しでも話に矛盾が生じた場合は容赦しないとシンヤは鋭い眼光を崩さなかった。
「私とキョウヤの愛の結晶、やっと手に入れた平穏……………私はとても幸せだった。愛する夫と可愛い可愛い息子に囲まれて生活するんだから、当然ね………………でも、そんな日々も長くは続かなかった」
「何故だ?」
「私に"帰還命令"が出たからよ」
「"帰還命令"?」
要領を得ない話になってきたと顔を顰めるシンヤにフォルトゥーナは端的に説明した。
「私よりももっと上の存在から天界への帰還を命じられたの。それは絶対に逆らうことのできない命令だったわ。逆らえば、私だけじゃなくてキョウヤと何よりシンヤに危害が及ぶ危険性があった」
「それで?」
「私は……………再び天界へと戻ったわ」
「だろうな。キョウヤの話を聞いていて、なんかおかしいと思ったんだ。あんなに見つからないなんてことないからな」
「……………」
「理由はどうあれ、お前はキョウヤと俺を捨てて出ていった。俺のことはまだいい。物心つく前だったからな……………だが、キョウヤは違う。これから幸せにやっていこうって時に突然妻を失った男の気持ちを考えたことはあるか?」
「……………ごめんなさい」
「言い訳しないのかよ。本当は俺達に危険が及ばないように出ていったんだろ?」
「いいえ。どんな理由があれど、私はあなた達を置いて出て行った。情状酌量の余地はないわ………………だから、シンヤ。本当にごめんなさい」
「……………やっぱり、お前ら夫婦だな」
フォルトゥーナの台詞がキョウヤと全く一緒だった為、思わず微笑むシンヤ。そして、その瞬間を見逃さなかったフォルトゥーナは興奮して、途端に叫び出した。
「シ、シンヤちゃんが笑ったわ!!こ、これは一大事よ!!もしかして、もう反抗期は終わったのかしら?こうしちゃいられない。カメラ、カメラ……………」
「うるさ…………うざ」
「ああっ!!2回も暴言吐いた!!」
「うざいから、大人しくしろ」
「はんっ!!もう元に戻っちゃった!!あと少しだったのに!!」
「いいから、早く話の続きをしろよ。このまま帰るぞ」
「わ、分かった!!分かったから、帰らないで一生ここにいて!!」
「無理に決まってんだろ」
ギャアギャア騒ぐフォルトゥーナを冷めた目で見るシンヤ。いくら美人とはいえ、先程からの一連の行動を見ていたティア達も流石に引いていた。
「さ、さぁ気を取り直して話に戻るわよ」
「………………」
フォルトゥーナはシンヤ達の視線を気にしないようにしつつ、再び話し出した。
「私は地球を去ってから、常にシンヤちゃん……………シンヤ達のことが気掛かりだったわ。まだ幼いあなたと生活力の怪しいキョウヤじゃやっていけるのかどうか不安だったわ。でも、そんな不安はすぐに消えたの。だって、キョウヤはあなたをソウヤ・モリタニに預けたのだから」
「っ!?あいつを知っているのか!?」
「当然。キョウヤから話は聞いていたから。まぁ、そうでなくとも彼は稀に見る逸材。地球で彼を超える者となるとそれこそシンヤぐらいよ」
「一体、あいつは何者なんだ?」
「知らないの?」
「自分のことは多くを語りたがらなかったからな」
「ふ〜ん……………まぁ、いいわ。それであなたを預けたキョウヤは私を探して旅に出て……………そして、異世界の王国によって勇者召喚され……………そうなところを私が横から邪魔したの」
「っ!?」
突然の告白に驚きを隠せないシンヤ。それを見つめながら、フォルトゥーナは話を続けた。
「確かにキョウヤは"地球"では強者よ。でも、異世界では何の固有スキルも称号もなければ、一瞬で命を落とす危険性がある。だから、私はキョウヤを召喚の直前、天界へと呼び寄せたわ」
「まさか……………」
「そうよ」
直後、フォルトゥーナはシンヤの予想通りの言葉を言った。
「彼の固有スキルと称号は私が与えたの」
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