第345話 天界
「本当にいいんだな?」
「もちろんです」
「一度向こうに行ったら、もう二度とこっちには戻ってこれないかもしれないんだぞ」
「私達は常にあなたと共にあります。その覚悟もできております。それに……………まさかとは思いますが、こっちに可愛い可愛いクランメンバー達を残したまま、二度と戻らないなんてことはないですよね?」
「そ、そうだな」
笑顔で圧力をかけてくるティアに顔が引き攣りながら答えるシンヤ。あの会議室での一件から、既に1週間が経過しており、その間に仕事の引き継ぎや処理しなければならない事項を全て完遂させたシンヤ達は現在、クランハウスの入口前にいた。周囲にはクランの全メンバーが集まっており、皆が祈るような気持ちで見送ろうとしていた………………と、そんな中でクーフォが一歩前へと進み出た。
「俺達がいない間、皆を頼んだぞクーフォ」
「はい。皆様もどうかお気をつけて」
「新婚早々、時間を取れなくて悪いな」
「何を仰います。私達もそうですが、お
「…………そうか。ありがとう。やっぱり、お前は優しいな」
「っ!?い、いえ!!私なんて」
「お前が俺の妻で良かった」
「っ!?ええっ!?い、今なんて」
「じゃあな。行ってくる」
「「「「「行ってらっしゃい!!!!!」」」」」
「ええっ!?ち、ちょっと!!て、展開が早すぎるんだけど!?」
約1名、混乱する者がいたがシンヤは気にせず、自身のステータスを表示し、"レベル限界に達しました。最終進化へ移行しますか?"という問いに……………
「俺の答えはとっくに決まっている」
"はい"を選択した。
―――――――――――――――――――――
シンヤが"はい"を選択した瞬間、突然意識がなくなり、気が付いた時には彼らはどこもかしこも真っ白な空間の中にいた。
「ここは……………」
そこはシンヤが今さっきまでいた世界でもましてや元いた世界でもない、全く理の違うどこかだった。見れば、ティア達は自分達が普段過ごしている世界の空気とは圧倒的に違うものを感じているのか、身体が無意識のうちに震えていた。一方のシンヤはまるでそこがホームであるかのように不思議としっくりときていた為、冷静に周囲へと視線を配っていた。
「ようこそ、天界へ………………待っていたわ、シンヤ」
すると、どこからか急に声が聞こえてきた。それによって、シンヤ達は咄嗟に声の聞こえてきた方向を見た。
「そちらの方々がシンヤのお仲間ね」
そこにいたのは絶世の美女だった。艶やかな長い黒髪に大きな瞳、鼻筋はくっきりと通り、誰がどう見ても美人だと分かる程だった。
「気安く名前を呼ぶな、クソババア」
しかし、シンヤはそんなの知ったことかと強気に打って出た。
「クソっ!?そ、そんなっ!?私のシンヤちゃんが反抗期に!?」
「黙れ。俺はお前のものじゃない」
「な、なんてこと…………あんなに可愛いシンヤちゃんがそんな」
「知った風な口をきくな。お前が俺の何を知ってる?」
「知っているわよ!!だってだって………………ここから、ずっとあなたのことを見ていたんだから!!」
しまいには泣き出しながら、シンヤの足に縋り付いてくる女。シンヤはそれを鬱陶しいと思いながらも特に振り払うことはせず、口を開いた。
「夫婦揃って、やってることがストーカーかよ。どうしようもないな」
「過保護と言って〜〜!!もしくは子離れできない女の子とか!!」
「女の子?」
「何?」
「……………いや、何でもない」
一瞬だけ鋭い眼光を向けてきた女に軽く冷や汗を流しながら答えるシンヤ。どうやら、シンヤにとって両親とは常に自分のペースを狂わせてくる存在らしく、若干のやりづらさがあった。
「……………こほんっ!!ごめんなさいね。多少、お見苦しい姿をお見せしてしまって」
「多少どころじゃないけどな」
泣きじゃくる女がシンヤの足を解放したのはそこから10分程が経ってからだった。いい加減、我慢の限界を迎えたシンヤが自身を蹴り飛ばそうとする様子を察知した女はそのタイミングでパッと離れ、何事もなかったかのように立ち上がったのだ。
「と・に・か・く!!こうして、会いに来てくれて本当に嬉しいわ!!ありがとう!!」
「いちいち言い方が腹立つな。それに会いに来るように仕向けておいて、何を言ってんだ?」
「えぇ〜っと…………何のことかしら?私、よく分かんな〜い」
「いい歳こいたババアが気色の悪い言い方すんな。虫唾が走るわ」
「ちょっ!?シンヤちゃん!!その呼び方はやめなさい!!ちゃんと"お母さん"もしくは"お母様"……………あ〜、"ママ"って手もあるか」
「ある訳ねぇだろ。現実見ろ」
「あ〜ん!!シンヤちゃんがお袋をいじめるよ〜!!」
「自分でちゃんとした呼び方、提示してんじゃねぇか……………あと、次に俺のことをそんな呼び方したら、沈めるからな?」
「どこに?ミシシッピ川?」
「どこ選んでるんだよ。それだと相場は東京湾とかだろ………………ってか、俺の元いた世界の川を知ってるってことはお前はやっぱり……………」
「ええ」
そこで急に居住まいを正した女はこう告げた。
「私はあなたの母、
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