第343話 花と散る
「死ぬって……………どういうことだよ」
シンヤの低い声が辺りに響き渡る。静まり返ったその場において、その声はよく響いた。
「そのままの意味だ。今回のシンヤとの戦いで俺はスキルを酷使しすぎて、身体にガタがきた。それに元々、"世界旅行"の次の代償が命そのものだったんだ。だから、俺が死ぬのは元から決まっていた」
「さっきの戦いで"世界旅行"は使っていないだろ?」
「ああ。だが、つい最近使ったからな」
「それこそ、おかしい。俺はこっちにいるのに使う必要がないだろ」
「お前も知っての通り、固有スキルは進化する。すると、大抵は効果の範囲や威力が変わる…………俺の"世界旅行"は進化した結果、異世界だけではなく、自分のいる世界の様子も観察できるようになったんだ」
「っ!?まさか!?」
「ああ、そうだ。
「ストーカーかよ…………良く言えば、過保護すぎんだろ」
「俺に残された唯一の楽しみだからな」
「ふんっ、そうかよ……………そんなに息子のことが好きなのかよ」
「当たり前だろ。愛おしくて愛おしくてたまらないさ………………まぁ、お前も親になれば分かる」
「そういうもんか」
「ああ」
途中、シンヤが恥ずかしさからキョウヤの抱擁を振り解いた為、2人は現在離れていたが心は繋がったままだった。そして、そんな状況で2人は至近距離から見つめ合っていた。
「……………そろそろだ」
「何とかならないのか?」
「こればっかりはな……………まぁ、お前にこうして会えて触れることができた。俺にはもう思い残すことはない」
「俺はまだ納得していないぞ」
「そう言われてもな…………はぁ、仕方がない。じゃあ…………」
その後、キョウヤから告げられた言葉は驚くべきものだった。
「父親には会ったから、次は母親に会いに行け」
「……………は?母親?」
まるで意味が分からないと言いたげな顔でキョウヤを見るシンヤ。しかし、そんなシンヤの反応を意に介さず、キョウヤはティア達の方を向いて、こう言った。
「シンヤの父、キョウヤだ。うちの息子を今日まで支えてくれて本当にありがとう」
頭を深々と下げてお礼を言うキョウヤ。代表して、ティアがそれに反応した。
「ティアと申します。私達の方こそ、シンヤさんにはいつもお世話になりっぱなしで………………本当にありがとうございます。それから先程は失礼致しました」
「いやいや…………それにしても君らがシンヤの嫁さん達か……………なるほど。これからもシンヤをよろしくな」
「もちろんでございます、お義父様」
「ふっ、お義父様か…………まさか、俺がそう呼ばれる時がくるとはな……………それに最期にシンヤの嫁さんを直で見れるなんて嬉しいな」
感慨深そうに頷くと今度はブロン達の方へと身体を向けるキョウヤ。途端、ブロン達は身体をビクッとさせながらキョウヤの言葉を待った。
「次はブロン達だが………………すまんな」
「な、何をでしょうか?」
キョウヤの謝罪に代表してブロンが反応する。その表情は戸惑いのものだった。
「もっと一緒に色々なことができたら良かったんだがな…………………俺にも余裕がなかったしな」
「とんでもない!!ワシらの毎日はあなたと出会えたその時から、楽しくて嬉しくて、とても幸せなものへと彩られました!!あなたがいなければ、ここにいるワシらは誰1人として今日までやってこれなかったでしょう!!だから……………」
そこから先は12人全員が揃って頭を下げながら、
「「「「「ありがとうございました!!!!!」」」」」
訓練場が震える程、大きな声でお礼を叫んだ。
「こっちこそ、ありがとな。俺もお前らと過ごす日々はとても良かったぜ」
キョウヤの表情と言葉から本当に最期なのだと確信したブロン達はもれなく全員が涙を流して佇んでいた。
「………………最後にシンヤ」
「…………何だよ」
「俺の息子に生まれてきてくれて、ありがとう。辛いことが沢山あったろうに今日まで生きていてくれて、ありがとう。そして………………こんな立派な姿を俺に見せてくれてありがとう」
「っ!?」
キョウヤの言葉はシンヤの耳の中にしっかりと入り、それは胸をきつく締め付けた。それによって、シンヤは険しい表情になりながらもちゃんと反応は返した。
「…………お前が俺の父親で良かった………………ありがとよ」
「っ!?ああっ!!」
キョウヤは段々と意識が薄れていき視界が霞がかっていく中、大きく返事をした。それと同時に自身の終わりが近いことを察した。
「そろそろ迎えが来たようだ………………そうだ、シンヤ」
「ん?」
「さっき、言ったお前の母親だが……………」
キョウヤはその続きを途切れながらもしっかりと告げた。
「彼女は……………神だ………………そして、これは……………俺のわがままだが……………もし、どこかで会うことがあれば……………助けてやってくれ」
それがキョウヤの最期の言葉となり、彼は訓練場の床へゆっくりと倒れていった。気が付けば外の雨は止み、開いた窓から花びらが入り込んでヒラヒラと舞い踊っていた。やがて、それらは倒れたキョウヤの周りに落ちて積もっていく。その間、誰もが言葉を発することなく、その様子をただただ見つめて立っていた。
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