第341話 はぐれ者の過去4

「俺をこの世界に召喚したのはとある王国だった。そして、召喚した者曰く、"この度、魔王が復活したのでお主を勇者として召喚した。どうか魔王討伐に力を貸してくれないか?"とのことだった。もちろん、魔王討伐には俺1人で向かう訳ではない。魔法使いの女と戦士風の男、弓使いの女が俺についてくるとのことだった。俺は早速、3人とコンタクトを取り、王国が設けた1ヶ月間の戦闘訓練の後にそこから旅立った」


ブロン達は自分達と出会う前のこの世界でのキョウヤの様子を知れて、終始興奮状態だった。それを知ってか知らずか

キョウヤは変わらぬトーンで続きを話し出す。


「俺達の旅は難航した。魔王のいる地に辿り着く前に色々とあったからだ。結局、魔王のいる地に辿り着いたのは俺が召喚されてから、約10年が経った頃だった。苦労の末、辿り着いた場所を見た瞬間、俺は困惑した。そこは魔王どころか、何も存在しない地だったからだ。俺は振り返り、この感情を仲間達と共有しようとした。すると………………そんな俺を仲間達は一斉攻撃し出した」


「「「「「っ!?」」」」」


まさかの事実にブロン達は驚きを隠せなかった。一方のシンヤ達はこの部分に関しては至って冷静に聞いていた。


「端的に言うと俺は王国に騙されていた。そもそも魔王は復活なんてしていなかったんだ。俺は王国が都合よく利用できる駒として異世界から召喚されたに過ぎない………………俺はそんな時になって初めて気が付いた。そして、薄れゆく意識の中、俺は思った。何故、人を簡単に信用してしまったのか、何故、疑うことをしなかったのか。"廃棄場"にいた頃は全てを疑ってかかるのは当然だった。育ての親も俺をそういう風に育てた。"たとえ、血を分けた親であっても毎日やり取りをする相手であってさえも疑え……………でなければ、ここでは生きていけん"と。あそこはそういう場所だった。しかし、俺は外に出てから変わった。人と接する度に人の温かさを知った。世の中はこんなにも素晴らしい人間達で溢れていることを学んだ……………その延長線上にはいつも十奈がいた」


自嘲の笑みを浮かべながら語るキョウヤ。それをシンヤは黙ったまま、見続けた。


「俺はあと少しで命が尽きかける中、急いで"写し鏡"を使った。召喚された時点で既にそのスキルを所持していており、日頃から使い慣れていた為、どうにかギリギリのところで発動に成功し……………俺は一命を取り留めた。その際の対象は何だったのか、今は思い出せないが俺を襲った3人は俺が死亡したと勘違いしたまま、血だらけの俺を放ってどこかへと消えてしまった。そして、そこから俺はあの"廃棄場"で暮らしていた頃の気持ちと感覚を取り戻し、この世界でやっていく決意をした………………と、そんな時だった。この世界には"冒険者"という職業が存在し、勇者を引退したら、やってみようと思っていたことを不意に思い出した。そこでギルドに行き、冒険者となった俺はブロン達と出会い、クラン"箱舟"を結成したんだ」


懐かしさに浸りながら語り続けるキョウヤ。だが、それも終盤に差し掛かると真顔になり、静かに言葉を紡いでいった。


「"箱舟"での活動は10年程続き、クランを解散したのは25年前だった。あの日のことは今でもよく覚えている。泣き叫ぶメンバー達に申し訳ないと思いつつも俺は彼らの元を離れ、1人放浪の旅に出ることにした。そこからだ。俺が"キョウヤ"ではなく"キョウ"という偽名を名乗り出したのは」


「い、一体何故…………」


ブロンは思わず、小さく呟いた。すると、その声が届いたのかキョウヤはブロンの方を向きながら、話を続けた。


「ブロン達には俺のことを意識して欲しくなかったからだ。俺の幻影を追い続けては解散した意味がない」


「そ、そんな……………」


「解散については本当に申し訳ないと思っている。だが、これは俺達にとって絶対に必要なことだったんだ………………ブロン、お前もそうは思わないか?」


「………………」


「ちょっといいか?」


「ん?どうした、シンヤ?」


2人の会話に割って入る形になり、一度断りを入れてから質問をするシンヤ。その表情は合点がいかないといいたげに眉根を寄せていた。


「今までの話が本当だとすると、お前がこちらの世界に召喚されてから勇者を務めた期間が10年、それからクランとしての活動が10年、そしてクラン解散後から今日まで25年……………計45年、お前はこちらの世界で過ごしたことになる」


「ああ、そうだな」


「ところが、お前の今の年齢は。お前は30歳の時に召喚されているから、そこから10歳しか歳を取っていないことになる。この矛盾は一体何だ?」


シンヤは話していく内にまるで喉に小骨が詰まっているかのような不快な表情になっていった。


「……………さっき、お前の"神眼"をもってしても名前以外、表示されなかったスキルがあったな?」


「……………確か、"世界旅行"とかいったか」


「ああ。その固有スキルはそれこそ神のような力を持っている者でないと閲覧することさえ、できない。んだ」


「は?そんなスキルがこの世に存在するのか?」


「いや、このスキルだけは特別だ。俺がからだ」


「要領を得ないな。お前はさっきから何を言っている?」


「悪いが、その部分に関してはそうプロテクトをかけた張本人に聞いてくれ。俺が教えられるのは"世界旅行"という固有スキルの効果についてだけだ」


「……………お前がそう言うのなら、分かった。で?その"世界旅行"とやらの効果は?」


「ああ。"世界旅行"……………このスキルはを支払うことで

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る