第340話 はぐれ者の過去3
「置き手紙はテーブルの上にあった。ちなみにシンヤが生まれてから、どこかで静かに暮らしていこうということになり、俺達は旅を一旦止めてアパートを借りていた。一家を支えるということで俺が就いた職は主に夜から始業することがほとんどで朝は寝ていることが多かった……………だから、だろう。彼女は俺が寝ていることを確認して、手紙を残し、朝早くにアパートを出て行ったんだ」
想像以上に辛いのか皆、話を聞きながら胸を押さえていた。中には涙を溜めている者さえいる。
「俺は起きて手紙を読んだ瞬間、思わず家を飛び出した。もちろん、シンヤがぐっすり寝ていることを確認し、ちゃんと鍵も施錠して、だ。どうしようもない俺にもどうやら人として大切な感情があったらしい。手紙を読んでいる最中も常にシンヤのことを気にしていた。そして、それは彼女も同じだった。手紙の中で何度も謝ると同時にシンヤのことを気にかけていた」
シンヤは顔を上げ、複雑そうな表情でキョウヤを見ていた。そこから読み取れる感情がどういうものであるのか、明確に答えられる者はこの場にいなかった。
「俺は彼女を探して近所を駆け回った。シンヤを残してあまり遠くへは行けない為、アパートの周辺をくまなく探していったんだ。まぁ、たとえシンヤのことがなかったとしてもパニックになった頭では彼女が向かう先の検討などつかなかったから、結局同じことになっていたと思うが………………」
「……………それで見つかったのか?」
キョウヤが昔話を始めてから、初めて口を開いたシンヤ。彼自身も戸惑っていた。本来、急かすような真似はするべきではない。それが分かっていながら、何故か、答えを早く知りたいという欲求が止まらなかったのだ。
「戸惑うな。その感情は当然だ……………なんせ、お前の母親のことなんだからな」
そこへすかさずフォローを入れるキョウヤ。その表情はどこか嬉しそうでもあった。
「ふざけんな。まだ、俺はお前とその女が両親だと信じた訳ではない」
「理性ではな。だが、本能ではどうだ?……………もう、お前の中で答えが出ているんじゃないのか?」
「………………」
「"家族"ってのには不思議な力があると思ってる。血が繋がっているのなら、尚更な。どれだけ離れていようとも目に見えない、それこそ魔法のような力で繋がっており、いずれ引かれ合う。どれだけ人として最低でも、どれだけの重罪を重ねようとも血の繋がった家族ってのは特別なものなんだ」
「…………ふざけんな。俺にとっての親はあの人とそこにいるブロンだけだ」
「シンヤ………………」
シンヤの言葉に胸が熱くなったブロンの目からは自然と涙が頰を伝って流れ落ちる。周囲はそんな彼らに釘付けだった。
「……………やっぱり嬉しいな」
「何がだよ?」
「お前にとって、そう呼べる相手がいることにだ。しかもそれだけじゃない。今や、これだけの仲間………………"家族"がいる。お前のそんな様子を見れただけで…………俺はそれだけで幸せだ」
キョウヤは幸せそうな笑みを浮かべてシンヤを見る。何故か、その視線を直視できなかったシンヤは慌てて目を逸らした。
「……………さっきの答えだが、彼女は結局見つからなかった。2時間程探し、シンヤのことが気になった俺は急いでアパートに戻った。俺がいない間に危ない目に遭っていないか、心配だったがスヤスヤと眠るシンヤを見て、俺は心底安心し、同時にある決意をした。シンヤを………………俺の育ての親に預ける決意をだ」
「「「「「っ!?」」」」」
シンヤの過去を知っているティア達はここで話が繋がったと驚いた。しかし、認識に若干のズレが生じていた。確か、シンヤは捨てられていたはずだ。そこで真相を確かめようとより一層、キョウヤの話に集中し出した。
「
「………………ちょっと待てよ」
キョウヤの発言に流石に黙ったままではいられなかったのか、シンヤは口を挟んだ。
「俺は捨て子だと聞いたぞ。ある寒い日の夜、毛布に包まれた状態で地べたに置かれていたと」
「それは違う。俺がお前をあの人に直接、預けたんだ」
「寒空の下、凍死する寸前で拾われたと……………」
「凍死なんかするもんか。確かに多少は寒い時期だったが、凍死する程じゃない」
「俺の名前は……………」
「俺と
「………………なんだ、それ」
シンヤは初めて聞かされた事実に渇いた声しか出せなかった。
「じゃあ俺はずっとあの人に嘘をつかれていたっていうのか!?お前らが裏で結託して、俺を………………」
「本当にそうだと思うか?」
「っ!?」
「あの人の愛情が全て偽りのものだったとお前は本当にそう思うのか?」
「……………いや、思わない」
「俺なんだ」
「?」
「俺があの人に頼んだんだ。シンヤは寒空の下で拾われた捨て子だということにしておいてくれ………………と」
「っ!?そんなことをしたら、俺はお前を恨むことになっていたかもしれないんだぞ?何故、そんなことを」
「それが至極当然のことだからだ。理由はどうあれ、俺はお前を置いて旅に出た。父親としては最低だ。俺は恨まれるべきなんだ。それが俺にとっての罰なんだ」
「それで全ての矛先が自分に向くようにと?」
「ああ。ただ預けたという事実だけではあの人まで恨まれかねない。まぁ、今にして思えば自分に罰を与えることで救われたかったのかもしれない……………が、どうやらその目論みも失敗に終わった。お前が今日まで俺を恨んで生きてこなかったのがその良い例だ」
「それは当然だろう。なんせ、俺はただ捨てられていたとだけ説明されたんだ。そこにはお前の名も父親がという説明もなかった」
「ああ、そうだ。あの人にしてやられたな」
「?先程から、ちょいちょいお前が実際に見ていない俺のことまで分かっている発言をしているが………………どういうことだ?」
「それについてはこの後、話す……………話が逸れたが、俺は
「転機?」
「ああ。30歳になった俺はなんと……………この世界に勇者として召喚されたんだ」
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