第335話 王導

「「"炎星着陸フレイム・ランド!!"」」


巨大な炎の塊同士がぶつかり合い、大きな爆発と煙を発生させてから消滅する。辺りには破壊の跡がいくつも残り、常時、煙で前も見えない状態だった。


「「"極氷世界アイス・ストーム"!!」」


それだけではない。次の瞬間にはその場が突然、氷の吹き荒れる凍てつく世界へと変貌を遂げていた。この急な気温と戦況の変化に観客席もついていくのが精一杯であったが、ティア達幹部はというと…………………ある程度の余裕を持ちながらも鋭い眼光を戦場へと向けていた。


「サラ、何かあったら、いつでも出れる準備をしておいて下さい」


「分かっていますわ………………本当は今すぐにでも出ていきたいところですけど」


「それをしたら、シンヤが……………って、んなことはここにいる全員が分かってるもんな」


「あいつ、只者じゃない」


「ノエ先輩がそう言うってことは本当にやばいんですね………………確かに殺気や威圧感は並々ならぬものを感じますが」


「そもそも固有スキルがとんでもないのじゃ。あれじゃ、普段のステータスの低さなどデメリットにならんわ」


「間違いなく、シンヤ殿にとって今までで一番の強敵だな」


「そんでもって、あいつを倒せるのもこの世でシンヤただ1人だけってことか」


「もし、マスターを酷い目に遭わせたら、ただじゃおかないデス!!だから、もうちょっと自重しやがれデス」


「落ち着くの。ボクも気持ちは分かるけど」


「だね。本気になったあいつを倒さなきゃ意味がない。きっと、この戦いはシンヤにとって、とても大事なものなんだ」


「そして、ワタシ達もそれを最後まで見守らなければならないわ」


そんなティア達の想いを背にシンヤは再び、魔法を放つ。


「"雷降地鳴サンダー・クエイク"」


すると、今度は同じ魔法をキョウが使ってくることはなく、一方的に発動することができた。だが、それもそのはずだった。これは雷魔法と土魔法を同時に使うという高等テクニックであり、地面を泥にして身動きを取りにくくしつつ、空から雷を命中させるというものだった。とはいっても戦場は地下の訓練場であり、外ではない。ということはもちろん、床は地面ではない上に空も存在しない。


「うお〜〜っ!!こ、これはまずいな!!」


しかし、シンヤにそんな常識が当てはまるはずもない。現在、特殊な素材で作られた床は泥へと変化しており、それによってキョウは足を取られて上手く動けないでいた。さらにその状態で上からいくつもの雷が降り注ぎ、どうにかしてそれを躱すので精一杯だった。


「"崩煌刀ほうこうとう"」


「っ!?」


そんな中、素早く静かに忍び寄り、キョウの後ろへと回り込んだシンヤは背中目掛けて刀を思い切り振り下ろした。


「ふんっ!!……………ぐはっ!!」


ところが、寸前で気付かれてしまい正面から両腕で防がれてしまった……………のだが、流石に完全に防ぎ切ることはできず、軽く袈裟懸けに斬られてしまった。


「くっ………………軽くでこのダメージか」


「お前、どんだけ化け物なんだよ。こっちはちょくちょく"未来視"を使ってんだぞ」


「場数と年季が違うからな。こっちは


「は?どういうことだ?それだと計算が……………」


「「「「「キョウヤ様!!!!!」」」」」


シンヤがそう言葉を続けようとした直後、突然訓練場の扉を開いてやってきた乱入者達によって、それも叶わなくなってしまった。


「気配で分かってはいたが、まさかこんな形でやってくるとはな………………ブロン、今は戦いの最中だぞ」


「すまんのぅ、シンヤ。じゃが、キョウヤ様が戦っているとなってはいてもたってもいられなくなってな」


「キョウヤ様?何を言っているんだ?あいつは"キョウ"って名前だろ……………ってか、ブロンにネバダ、ウィア、ハーメルン、ケリュネイア、その他諸々………………この面子って」


シンヤが色々と考え込む中、代表して話しているブロンは続けてこう言った。



「いいや。シンヤと戦っている、あのお方の名は"キョウヤ"様で間違いない………………彼はワシらのリーダーを務め、かつて"王導"と呼ばれたクラン"箱舟"のクランマスターじゃ」

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