第336話 キョウヤ
「お前が"箱舟"の元クランマスターだって?」
「………………」
シンヤの問いかけに対して、ただ黙って下を向くキョウ。その表情はフードに隠れてしまって、よく見えなかった。
「そうじゃ。突然の解散宣言から25年。それからパッタリと連絡を取ることすらもなくなったが、つい最近お会いすることができての」
元"箱舟"のクランメンバー総勢12名が揃う中、ブロンが代表してシンヤと会話を続ける。
「だから、それだと計算が合わないんだよ。こいつの歳は40。じゃあ、何か?お前らが解散した時、こいつは15歳だったっていうのか?」
「いいや……………」
ブロンが次に発した言葉は彼らを除く者達全てが驚くものだった。
「キョウヤ様は……………ワシらと出会った時から、見た目が一切変わっていないんじゃ」
「……………は?」
ブロンの思いもよらぬ発言に流石のシンヤも驚きから、開いた口が塞がらなかった。そこへ再び、ブロンの言葉が続く。
「ワシらも何回か、そのことについて尋ねた。しかし、キョウヤ様は決まって悲しい表情をした後に"いつか話す"とだけ告げて…………………キョウヤ様!!これだけ戦いを邪魔をして、こんなことを訊く権利などワシらには到底ありません!ですが、無礼を承知で言わせて頂きます!!………………昔から続き、こうしている今もなお、あなたを縛りつけているものとは一体何なんですか!!」
ブロンの必死な叫びにようやく顔を上げたキョウ……………改めキョウヤは鋭い眼光をシンヤとブロン達へと向けながら、こう言った。
「お前らが気になっていることは全て……………この戦いが終わった後に答えよう」
「「「「「なっ!?」」」」」
ブロン達がキョウヤのそんな言葉に驚きを隠せない中、一方のシンヤはというと……………
「そうこなくっちゃな!!」
ニヤリとした笑みを浮かべながら、嬉々として刀を構えた。
「"雷神刀"」
そして先程、不発に終わった分の雷を刀に纏わせ、キョウヤへと一瞬で詰め寄り、勢いよくそれを振り下ろした。
「「「「「キョウヤ様っ!!!!!」」」」」
ブロン達の悲痛な声が辺りに響き渡る。個人個人として、シンヤと付き合いのあるはずの者もいるにはいるのだが、彼らの顔は皆一様に当時、キョウヤと行動を共にしていた時のものとなっており、シンヤのことは置いておいて無意識に彼のことだけを心配していた。しかし、そんな中であってもシンヤの妻であるウィアだけはブロン達から離れ、ティア達の近くで2人のことを見守っていた。
「……………お前らが変わらず、俺のことを想ってくれているのは嬉しいが………………」
刀を手甲で防ぎながら、キョウヤは言う。
「安心して、そこで見てろ。俺が今まで負けたこと、あるか?」
その姿は当時、ブロン達が見ていたまんまだった。傲岸不遜・豪放磊落を絵に描いたような人物でどこか人を惹きつける魅力のある、あの"王導"キョウヤ…………………それが今、ここに完全に帰ってきたと彼らは確信した。
「シンヤ……………
「ああ……………これがお前にとって最初で最後の敗北だ」
「随分と生意気言うな……………俺にそっくりだ」
「全然嬉しくねぇよ」
この場にいる誰もが思っていた。おそらく、次の瞬間には決着がついていても何ら不思議ではないと。その為、観客達は一瞬たりとも瞬きせずにシンヤとキョウヤの戦いを見逃さないよう、神経を集中させて見守っていた。
「だが、お前の言ってることは当たっているかもな」
「ん?」
「おそらく、今日が俺の…………………」
キョウヤの呟きの最後の部分は刀に付与された雷の音に遮られ、誰の元にも届くことはなかった。
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