第334話 未来視

「うおりゃっ!!」


「ふんっ!!」


側から見れば、何が起きているのか分からない程、高速で駆け回りながら、刀と拳を交える2人。その度に甲高い音が周囲に響き渡ることでかろうじて2人がまだ戦いを続けているのを観客席は理解していた。


「シンヤさん……………」


しかし、ティアを筆頭により付き合いの長い者達程、シンヤの身を案じて、表情を曇らせていた。シンヤは出会った当初から常に自信に満ち溢れ、かといって決して驕らず、どんな相手に対しても警戒を怠ることはなかった。その結果、今日まで無敗を貫き、数多の敵を沈めてきたのだ。だが、今回の相手は今までとは少々、勝手が違っていた。シンヤに今までのような自信も余裕もなく、のだ。そして、何もそれは固有スキルだけのせいではないと2人の様子を見守っていたティアは感じていた。


「シンヤさん、どうかご無事で」


とにかく、今の自分にできることは静かに見守っていることだけだ……………そう思ったティアは祈るような気持ちで2人の戦いへと目を向けた。




  









「こんなに良いステータスは初めてだ。いや〜感動だわ。ありがとな」


「ちっ……………かなり、やりづらいな」


「そりゃそうだ。お前も言っていたがなんせ、もう1人の自分と戦っているようなものだ。どうだ?今まで地道に積み上げてきたものを横から掻っ攫われて使われる気分は?」


「別にどうもしないな。……………その悔しさから、何度も奪い返してもきたが」


「……………まぁ、だ。それで段々と学び、強くなっていくもんだ。現に


「っ!?お、お前っ!!一体どこまで……………」


「おっと、お喋りはここまでだ。お前も時間がないだろう?」


「……………絶対に勝って色々と聞き出してやる」


「やってみろ、鼻垂れ小僧が」


「っ!!"神滅刀"!!」


「うおっ、"大革命"!!」


シンヤの攻撃を避ける為にキョウが使用したスキルは邪神との戦闘中にシンヤが獲得したものだった。奇しくも自分で使う前に相手に使われた形となったシンヤだが、既にそうくることは読んでいたのか、彼もまた同じスキルを使い、追撃を繰り出した。


「"大革命"!!"黒神刀"!!」


「ちぃっ!!相変わらず、厄介なスキルだな"未来視"は!!しかも使!!」


「"写し鏡"とかいうチートな技にも流石に制約はあったか。おそらく、このスキルが俺とお前の明暗を分ける鍵だ………………まさか、奴に助けられる形になるとは」


「そのスキルはもうお前のもんだ。助けられる、助けられないとかいう次元じゃねぇよ………………にしてもやりづれぇ」


「ほぅ?お前もそう感じていたか」


「ああ。"写し鏡"も"天岩戸あまのいわと"も大抵は俺が望んだ通りの結果となる。今回みたいに一部のステータスは写し取れないなんていう事態にはまずならねぇし、封じ込める固有スキルも相手にとって要となるものがほとんどだ。というか、絶対にそうなるはずだった……………ところが、お前だけは違った。おそらく、お前のLUK 値のせいだな」


「"測定不能"のか」


「ああ。今までそんな奴は見たことねぇ。俺の10万だって異常なのによ……………つまり、常に運はお前に味方してるってことだ」


「何だ?負けた時の言い訳にするつもりか?」


「いいや……………」


そこでニヤッとした笑みを浮かべたキョウは拳を握り締め、


「っ!?」


いつの間にか、シンヤの後ろへと回り込んでその拳を思い切り叩き込んだ。


「尚更、お前を倒すのが楽しみになった!!」


キョウの一撃によって、そのまま真っ直ぐ吹っ飛んだシンヤ。それに確かな手応えを感じて口角が上がるキョウ。しかし結果、反対側の壁へとめり込んだ形となったシンヤを見て、キョウは……………笑顔から一気に真顔となった。


「まぁ、そう上手くはいかねぇか」


振り向く間もなく背中から攻撃を受けたのであれば、本来はそのまま正面から壁へと突っ込むはずである。ところが、シンヤは


「お前は一体どこまで視えている……………」


キョウの問いかけに対して、シンヤはこう答えた。



「お前が俺に負けるまでだ」

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