第332話 ステータス
「訓練場か……………地下にこんなものまであるとは流石だな」
あの後、シンヤはキョウを連れて真っ直ぐフリーダムまで帰ってきた。その際、会議室や応接室へと向かわず、訓練場へと足を運んだのには理由があった。
「本当に俺が勝ったら、教えてくれるんだろうな?」
「ん?」
「だから、面会室で最後にお前がした発言についてだ」
「ああ、いいぜ。俺と戦って、お前が勝てば教えてやるよ」
「その言葉、忘れるなよ?」
現在、訓練場にはシンヤ達の戦いを見守ろうと"黒天の星"の全メンバーが駆けつけ、観客席に静かに座っていた。実はシンヤがキョウの元へと向かった直後、ティアはクランメンバー全てに店や冒険者活動を臨時休業させ、いつでも動けるよう待機させていたのだ。そして、シンヤからクランハウスへと戻る旨を魔道具によって知らされたティアは急いで全メンバーを訓練場へ向かうよう指示し、今に至る。通常、シンヤがどんな敵と戦ったり、対話しようがこうして全メンバーがいちいち集まることはない。しかし、今回に至っては今までのどんな敵とも違うものをキョウに対して感じ取ったティアは2人の戦いをこの目に焼き付けようと訓練場までやってきた。加えて、この一戦はティアだけではなく、クランメンバー達も見なくてはならない……………直感的にそうも感じた為、全員をこうして呼んだのだ。
「戦いを始める前に1ついいか?」
「何だ?」
「俺がお前の父親であるということの証拠を1つ提示しよう」
"父親"という単語に流石に黙ったままではいられないのか、ザワザワとしだす観客席。そんな様子を軽く無視したキョウは言葉を続けた。
「"ステータス"。攻撃力や防御力、魔力量などを数値化し、それに加えて"固有スキル"や"武技スキル"、"魔法"などがまとめられた総合戦闘力を表すものだ。通常、この世界で生まれた者は"ステータス"というものの存在を知らずに生きている。戦闘を生業とする冒険者であってもそれは例外ではない。皆、感覚的に自分にはどんな魔法が使え、何が得意であるのかを理解している状態だ」
「………………」
「ところが、元々他の世界で生まれ、こっちへとやってきた者にそれは当てはまらない。召喚だろうが、転生だろうが、はたまた転移だろうが………………異世界人は皆、等しく"ステータス"の存在を知り、それを見ることができる。これはとてつもないアドバンテージだ」
キョウの言葉に驚きと戸惑いが入り混じった反応をする観客席。とはいっても"ステータス"というものが存在することに対してではない………………キョウが"ステータス"に関して、色々と知りすぎていることに対してだった。
「観客席も戸惑っているな。何故、俺がこのことを知っているのか不思議でたまらないらしい………………だが、シンヤ・モリタニ…………お前はその理由にとっくに察しがついているはずだ。そして、それこそがお前の父親であるということの証明にもなる」
「………………」
キョウの言葉にしばしの沈黙で以って返すシンヤ。その間、ざわめきは収まったものの、観客席もどこか落ち着かない様子で2人を見守っていた。すると、少ししてシンヤは鋭い眼光をキョウへと向けたまま、刀を抜いた。
「俺の動揺を誘ったみたいだが……………残念だったな。今、そんなことを聞かされたところで俺はどうともならん」
キョウとの距離を歩きながら、少しずつ詰めるシンヤ。対するキョウはその場を一切微動だにしなかった。
「なんせ、5分後には……………」
「っ!!」
2人の距離が2m程となった直後、駆け出したシンヤはティア達であっても視認できるか分からない速度でキョウへと迫り、刀を振り下ろした。
「お前の口から洗いざらい吐いてもらうからな!!」
「いいなっ!!その意気だ!!かかってこい!!」
キョウはそれを左腕の手甲で以って、受け止めた。こうして、彼らの今後の運命を左右する一戦が幕を開けたのだった。
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