第2章 親子喧嘩

第331話 面会2

「起きろ、57番!お前に面会希望者が来ている」


「……………ようやくか」


「おっ、やっと喋ったな。お前が一言も話さないから、看守達は気味悪がっていたぞ」


「……………話す必要性がない」


「まぁ、それはそうなんだが」


「……………それよりも早く案内してくれ」


「はぁ。分かったよ」








―――――――――――――――――――――








「俺はシンヤ・モリタニ、冒険者をしている。お前が"キョウ・モリタニ"で間違いないか?」


「ああ…………こうして、対面で接するのは初めてだな」


「間接的には接したことがあるからな。封筒の件だろ?ありがとな。助かったわ」


「……………その分じゃ、暗号は解読できたみたいだな。しかし、俺が言っているのは何も封筒の件だけじゃない。記事然り、吟遊詩人の歌然り……………レムロスでの演説に至っては現場でお前の勇姿を見ていた」


「なるほど……………しかし、妙だな。に見られていたのに俺は全く気が付かなかった。一体これをどう説明する?」


「俺が大したことのない人間だからだろ。だから、群衆の中に紛れていても気が付かれないんだ」


「過剰な過小評価も大概にしろ。こうして目の前にいて、分かる………………キョウ・モリタニ。お前は只者ではない」


「………………」


「だから、納得がいかないんだ。お前程の男に見られているのに気が付かなかったということに………………何より、俺のプライドが許せそうにない」


「…………1つフォローをしとくと俺には特殊な固有スキルがあってな、そのせいでお前が気が付かなかっただけだ。特別、気に病む必要はない」


「………………」


「………………」


ここで突然、2人の間に沈黙が訪れた。お互いの真意を汲み取ろうとするかのように視線が交錯する。もし、ここに第三者がいたのなら、この空気に耐えきれずに思わず部屋を飛び出してしまうだろう。それほどの緊張感がそこには漂っていた。


「……………止めだ。今、ここで互いの腹を探り合ってもしょうがない……………にしても食えない男だな」


「それはお前もだ、シンヤ・モリタニ」


「「……………ふっ」」


2人は全く同じタイミングでニヤリとした笑みを浮かべた。そして、その直後に立ち上がったシンヤはこう言った。


「お前をここから出す。聞けば、"食い逃げ"で捕まったらしいじゃないか。だから、ここへ来る前にその店の店主や看守長へ金を払って話をつけてきた」


「…………すまんな。ちゃんと金は返す」


「…………お前、わざと捕まっただろ?本当は金も持っていて、ちゃんと払う意思もあった。だが、お前には何か目的があって捕まった…………違うか?」


「人生、そんなに考え過ぎるとつまらなくなるぞ?」


「暗号を発した奴がよく言うな……………もし、お前の目的というのが俺に会うことだとしたら、この時期のタイミングが一番いい。なんせ、色々なことが一段落したばかりだからな。それにお前が使った"モリタニ"という名字………………これは最近、結婚したばかりでその名字となった妻達にとっては非常に敏感な単語だ。そこで俺が妻達を不安にさせないよう、確実に動くと踏んだお前はあえてその名字を使った」


「よく回る頭だ」


「常に回さなければ、組織は終わる。これは俺個人の問題じゃない」


「つまり、俺がお前らに被害を及ぼすかもしれないと?」


「それは分からない。だが、お前からは今まで会ったどんな者とも違う空気を感じる………………これほどやりにくい相手は初めてだ」


「あの"黒締"にそこまで言ってもらえるのは光栄だな」


「思ってもないくせに白々しいことを言うな」


「バレたか」


「当たり前だろ」


「じゃあ、バレたついでにもう1つバラすわ」


「ん?」


面会室から出ようとドアノブを捻るシンヤに男はこう言った。



「実はな、俺ってお前の父親なんだわ」

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