第327話 披露宴2

午前の部の"結婚式"でシンヤの伴侶となったのは何もティア達、幹部だけではなかった。そもそもわざわざ朝早くから始まった結婚式が1回しか行われないのであれば、午後の部の披露宴まで時間が大幅に余ってしまうのだ………………というよりもその前に理由が存在した。それはシンヤと結婚する者の人数が多すぎたからである。


「今日はなんて幸せな日なのかしら」


クーフォが周りを見渡してから、最後に自分を見てしみじみと呟いた。静謐な雰囲気で始まった披露宴も遂に半ばまで差し掛かった。受付や幹事、周辺の警備などを"黒天の星"の組員達が務め、招待客に何1つ不自由を感じさせないのを最低限の条件として主催者側は臨んでいた。会場はもちろんのこと、待合室やトイレ、その他の部屋に至っても不快にならない程度の豪奢な飾り付けがなされ、途中には吹き抜けの天井や白を基調とした美しい螺旋階段などが見受けられた。そのどれもが細部までこだわった意匠が施されており、それは特殊な鉱石で作られた床や階段にもよく表れていた。遠路はるばるやってくる招待客には座り心地が抜群な最高品質のソファーが出迎え、加えてクランハウス内に常に流れている心が休まるような優しいBGMが彼らの眠気を誘う。会場のあちこちには招待客が助けを求められるようにと組員達がスタッフとして常に常駐しており、丁寧な接客でもって対応してくれるだろう。こうして万全を期した体制で迎えた披露宴は途中の不審者騒動を除けば、概ね予定通り進み、招待客の反応も上々だった。


「まさか、私がシンヤ様……………いえ、シンヤとこうなるなんて」


そう。何を隠そう、彼女もまたシンヤの結婚相手の1人だった。実はクーフォ達、幹部候補生の女性陣もシンヤを異性として好いていたのだ。そして以前から、シンヤに対してその気持ちをぶつけていた彼女達はいつしかその想いか実を結び、それぞれがシンヤと濃い時間を過ごしていた。しかし、まさか自分達もティア達と同じくらい愛されているとは思いもしなかったクーフォ達は今日というこのおめでたい日の主役として選ばれた瞬間、あまりの驚きと嬉しさから膝から崩れ落ちた。つまり、話をまとめるとシンヤの結婚相手はティア達、幹部とクーフォ達、幹部候補生となり……………


「……………それにしてもまさか、あなた達まで名乗り出るとは思わなかったわ」


そうもなかった。何故なら、彼女達に加えてその他にも3名いたからだ。


「いや〜父ちゃんがうるさくてな」


「この期に及んで何言ってるの。もっと素直になりなって」


「ではウィアさんは外れて頂いて結構です。私としてもその方が嬉しいので」


なんとウィア、リース、セーラもまたシンヤの結婚相手だった。しかし、この中で唯一、別組織の者であるウィアはどうしても浮いてしまっている。では一体何故、そんな状態に陥ると知っていながら、彼女が結婚相手として名乗りを上げたのか、それは……………


「セーラ、ちょっと待てよ!う、嘘だから!確かに父ちゃんから背中を押されたのは事実だけど、これはアタイの意思でしていることだから!」


「ではシンヤさんのことをどう思っているんですか?」


「うっ…………そ、それは」


「照れていたって何も始まりません。そうやって、チンタラしているうちに大きなチャンスを逃しますよ?いいんですか?自分だけ置いてけぼりになっても」


「ううっ……………くそっ!ああっ、分かったよ!言うよ!アタイはシンヤのことが……………大好きだ!!!!好きで好きでたまらないんだ!!!めっちゃ愛している!!!」


軽くけしかけたつもりのセーラは思ったよりも激しく感情を爆発させたウィアに驚いた。隣にいるリースに至ってはあまりに急な事態に軽く引いていた。


「だってさ、アタイが捕まって"もうダメかもしれない"って思った時に颯爽と現れて救ってくれたんだぞ?そんなの惚れるに決まってるだろ…………あぁ、待て。言いたいことは分かる。それにしても急すぎるって言いたいんだろ?でも、その前からアタイはシンヤに興味を持っていたんだ。まぁ、それは冒険者としてのあいつの強さと組織のリーダーとしての器の大きさにだがな」


突然、早口で話し始めたウィアに対して周りが引くのもお構いなし。彼女の演説は一向に止まる気配を見せず、そのまま続いた。


「昔から"お転婆姫"とか女の子らしくないと言われていたが、実は"勇者に救われる姫"のおとぎ話が大好きだったんだ。そのことを周りには知られたくないから、隠れてコソコソと読んでたぐらいだぞ」


誰も聞いてもいないことをペラペラと喋り始めるウィア。いくら強固な要塞であろうと一度崩れてしまえば、この通り。ウィアは恍惚な表情を浮かべながら、語り続ける。


「密かに憧れていたシチュエーション。自分が"囚われの姫"となり、カッコいい勇者様に救われる………………それがついこの間、実現したんだ。それも以前から興味を持っていた男によって」


「ウィアって、状況に流されやすいの?……………ボソッ」


「どうなんでしょう。ただ1つ言えることがあるとすれば……………意気揚々と語る顔がキモいですね」


「おい、そこ!聞こえてるぞ!ってか、セーラに至っては小声ですらないじゃんか!!」


「「っ!?しまった!!」」


「ったく………………とにかく、これで分かったか?アタイがどれだけシンヤのことを想っているのか?」


「あの…………」


「ん?何だ?」


恐る恐るといった具合でセーラはウィアに話しかける。その様子から非常に言いづらい内容であることは明らかだった。


「けしかけた私が言うのもなんなんですが……………」


「何だ?言いたいことがあるのなら、ハッキリと言え」


セーラはその後、10秒程の間を空けてから、こう言った。


「私達、まだですよ?」


「………………へ?」


セーラに言われたことが即座には理解できなかったのか、しばらく固まるウィア。


「っ!?あああああっ!!!!アタイ、なんてことを!!!」


しかし、当然いつまでもそうしている訳ではなく、再起動した彼女が慌てて辺りを見渡すとそこはセーラの言っていた通り、披露宴の会場であり、全員の視線が自分に集中しているのが分かると頭を抱えて悶絶した。


「……………ウィア、恥ずかしがってるところ悪いが、俺はお前の気持ちが聞けて嬉しいぞ。こんなめでたい席でまさか、こんな気持ちの良いハプニングを起こしてくれるとはな………………改めて、俺はお前を好きになって良かったと思う。そして、ありがとう。俺と結婚してくれて」


しかし、シンヤにぶつけられた素直な気持ちに対して、ウィアはというと……………


「………………」


何も言うことができず、ただただ俯いて真っ赤な顔を隠していることしかできなかった。

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