第325話 結婚式

それは連盟ユニオンとの戦争が終わり、シンヤ達がフリーダムのクランハウスへと帰還してから数日が経った時のことだった。


「唐突だが、結婚式を挙げたいと思う」


「「「「「は?」」」」」


シンヤは突然、そんなことを言い出したのだ。すると両隣に座るティアとサラを除くその場の全員が驚いた。ちなみに現在、彼らがいるのは最も大きな会議室であり、シンヤ達に加えて幹部全員が集まっていた。


「それって………………一体誰のだ?」


ほとんどの者が呆気に取られる中、カグヤは恐る恐るといった感じでシンヤに訊いた。


「俺達のだ」


「「「「「なっ!?」」」」」


またもや驚く面々。何も聞かされていなかったことに加えて、それが自分達のものとなれば、この反応も当然だった。しかし、先程からティアとサラはしたり顔で頷いており、それに違和感を覚えたアスカは思わず突っ込んだ。


「あの…………何でティアさんとサラさんは全く驚いていないんですか?」


「そんなの決まっているじゃないですか」


「?」


「私達は既に知っていたからですわ」


「「「「「………………」」」」」


ティアとサラの答えに室内に静寂が訪れる。そこですかさずシンヤはフォローを入れた。


「実はティアの祖父母の家にいる時に急に思い付いてな。お前らも分かっているとは思うが、俺達は常に忙しい。そして、この世界ではいつ誰がどうなってもおかしくはない。だから、後悔が残らないよう一生に一度の幸せなビッグイベントは絶対にやりたいと思ってな」


「シンヤ……………」


「シン、ヤ…………」


「シンヤさん………」


「シンヤ……………」


「シンヤ殿…………」


「マスター…………」


「盟主様……………」


「シンヤ……………」


皆が感動する中、ドルツとニーベルは顔を見合わせて、肩を竦める。と、そこで急に不安を覚えたカグヤはシンヤへ問いかけた。


「"俺達の"って言ってたけど、具体的には誰と誰のことだ?まさか、シンヤと結婚できるのは1人だけとか……………」


「そんな訳ないだろ。俺はお前らを等しく愛しているんだ」


「っ!?そ、そうだよな。疑って悪い」


「カグヤ、お前はいつも自分に自信がないな」


「だ、だって仕方ないだろ!アタシ以外、みんな綺麗で女らしくて……………」


「いいか、カグヤ?よく聞け。お前だって美しいし、色気が半端じゃないぞ。現にすれ違う男達がアホ面下げてお前のことを見ているんだ。それのどこが女らしくないんだ?」


「っ!?」


「それに俺はお前の容姿だけではなく、内面も好きだ。何もそれはカグヤだけに言えることではなく、ここにいる全員がそうだ。だから、自分に自信を持て」


「わ、分かったから、これ以上はやめてくれ!!」


「カグヤ、照れているんですか?可愛いですね」


「う、うるさいぞティア!!」










―――――――――――――――――――――











よく晴れた日の朝。適度な気温と頬を撫でる心地良い風に包まれながら、一生に一度のおめでたい式が開かれた。場所はクランハウスの敷地内に作られた教会であり、そこには今回の主役の親族達が参列していた。皆、この日を待ちに待ち望んでおり、招待状を受け取った日から終始、どこか落ち着きのない毎日を送っていた。だが、それも今日でおしまい。なんてったって、実際に目の前で可愛い娘達の晴れ姿を見ることができるのだから……………ちなみに式は滞りなく進んだ。特殊な素材で作られた窓から差し込む光によって、教会内はどこか神秘的な雰囲気を醸し出しており、それは今日という特別な日に花を添えてくれた。プログラム的にはまず最初に花嫁それぞれが美しいドレスに身を包み、赤いカーペットを歩いた。その際に最も親しい親族が腕を貸してくれたのだが、全員がもれなく感極まって涙を流していた。そして、花嫁全員が揃ったところで1人1人挨拶をしていった。


「おばあちゃん、おじいちゃん。会ってそんなに経っていないのに出席してくれてありがとう」


「何を言っているんだい。大切な孫娘の晴れ舞台を見に行かなくてどうする」


「そうだ。こんなめでたい日に呼んでくれて、むしろ、こちらがお礼を言う立場だ」


「ありがとう……………じゃあ、2人共よく聞いてね。私、ティアは今日を持って"ティア・モリタニ"となり、シンヤ・モリタニの伴侶となります」


「良かったね。おめでとう」


「ティア、おめでとう。俺は自分のことのように嬉しいぞ」


このような感じで全員の挨拶が進み、それが終わると今度はシンヤが前へと歩み出て、話し始めた。


「ご来場の皆様に聞いて欲しいことがある。俺、シンヤ・モリタニはここにいる妻達全員を幸せにすると誓おう。もし、それが果たせなければ、俺をあなた達の好きなようにして構わない。俺のことが憎ければ煮るなり焼くなり好きにしてくれ。何か望むものがあるのなら、要求してくれ。すぐに手配する。そして、何か気に入らなければ言ってくれ。早急に改善しよう………………俺がここまで言えるのはそれだけ妻達への想いが強いからだ。であればこそ、もし彼女達の幸せを実現できないのなら、俺は俺自身がひどく許せない。そうなったら、俺は夫失格であり、皆様から責められるのは当然のことだ」


シンヤはそこまで言い切ると黙って聞き入っている参列者を見渡してから、息を大きく吸って高らかにこう宣言した。


「ティア、サラ、カグヤ、ノエ、アスカ、イヴ、ラミュラ、スィーエル、レオナ、ローズ………………俺はここにいる妻達全員を愛している。そして、一生大切にすると誓おう!!」


「「「「「「「「「「私達もシンヤ・モリタニを夫として深く愛し、彼を一生支え続けると誓います!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」


その瞬間、教会内に大きな拍手の花が咲いた。皆、とても幸せそうに微笑みながら、新郎新婦を温かく送る。


「…………あれ?俺の出番、必要ないんじゃね?」


そんな中、神父を任されたドルツはこの状況に苦笑せざるを得なかった。

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