第324話 全面戦争6

「はぁ、はぁ、はぁ…………」


軍団レギオン"赤き剣群"の傘下クランのクランマスター、ドソーは息も絶え絶えになりながら、自身が所有するクランハウス内へと駆け込んだ。そもそも現在、戦場にいるはずの彼が一体何故こんなところにいるのか………………それは"赤き剣群"の軍団長レギオンマスター、レッドにより"作戦E"が発令されたからである。"作戦E"の内容とは連盟ユニオンに所属する傘下クランのクランマスター及び軍団長レギオンマスターは至急速やかにクランハウスまたは軍団レギオンハウスへと帰還しろというものだった。これは万が一にも此度の戦争で敗北の色が濃くなりそうになった時に発令されるものであり、部下達を時間稼ぎに使い、拠点へ一時帰還して全財産を持って逃げ延びた後、どこかで落ち合おうと事前に取り決められたものだった。とはいっても彼らとしてはその万が一が起こるとは到底思えず、3つの軍団レギオンが一緒になって戦えば、いくらとんでもない噂がいくつもある敵であろうとも恐るるに足らないと高を括っていたのだ。しかし………………


「まさか、こんなことになるとはな。だが、事前に作戦会議をしておいて正解だった。よし。あとは急いでみんなと合流を……………」


ドソーは懐にいそいそと何かを忍ばせて、今にもクランハウスを飛び出そうとした………………と、その時だった。


「おいおい。そんな大金を持って一体どこに行こうというんだ?」


彼以外、誰もいないはずの部屋に誰かの声が響いたのは……………


「っ!?だ、誰だっ!?」


ドソーは焦りながらも目をよく凝らして部屋の中を見回した。すると、そこにいたのはこれまた先程まで同じ戦場にいたはずの"黒の系譜"……………それも傘下クランのクランマスターだった。


「お、お前は"剣聖"ギース!な、何故ここにいる!?」


「それはこちらの台詞だ、"剣の申し子"ドソー。お前の方こそ、こっそりと戦場から抜け出して一体どこに行くのかと思えば、こんな場所まで………………どうした?今は戦争のお時間だぞ?」


「ちっ、厄介なことになった……………それにしてもおかしいな。来る時、追手はなかったはずだが」


「確かにお前程の相手に生半可な尾行は不可能だろう。だが、忘れたのか?俺の……………俺達のトップが誰であるのかを」


「…………なるほど。"黒締"に何か仕込まれているのか」


「いいのか?最期に考えていることがそんなことで?」


「は?最期?」


ドソーの問いかけに対して、ゆっくりと剣を引き抜きながらギースはこう言った。


「ここから逃げ延びられる訳がないだろう。残念だが、お前はここで終わりだ」









―――――――――――――――――――――








「遅い!全然来ないじゃないか!」


レッドは思わず、怒鳴った。現在、レッド・アレイ・ヘビーの3人は落ち合い場所となっている森の中にいた。既に集合時間から10分は経っているのだが、この3人以外の者は一向に現れる気配がなく、だんだんと彼らに苛立ちが募ってきていたのだ。


「……………やっぱり、通信の魔道具にも反応しないな」


「こちらもだ」


「一体今、あいつらに何が起きているんだ」


傘下クランのクランマスターへと魔道具を使い、連絡をしようとしていたヘビーとアレイであったが、向こうがちっとも反応しない為、何かトラブルがあったのではないかと思い、彼らは段々と不安を感じ始めた。


「おかしい…………これはおかしいぞ。なんだか嫌な予感がしてきた。おい、お前ら……………っ!?」


そして、レッドが焦った声を出し、2人へ確認を取ろうと思い、振り返った次の瞬間、彼は驚くべき光景をそこで目の当たりにして息を呑んだ。


「「……………」」


「OK〜お前もそのまま静かにしてろよ?命が惜しければな」


そこにはヘビーとアレイに武器を突き付けたアスカとノエが立っており、


「さて……………お前ら、ここに全財産を置いていけ」


一方のレッドには刀を向けて不敵に笑うカグヤがいたのだった。







―――――――――――――――――――――








「お、カグヤか。どうした?」


「いや、例の件が終わったから報告をとな」


「そうか。俺達の方ももう少しでここを発つ予定だ」


「全く、そっちはいい気なもんだぜ。こっちは戦争してるってのに。3TOPがいなくてどうすんだよ」


「だが、お前らに経験を積ませるチャンスだからな。それに困る程の相手ではないだろう?」


「まぁな。アタシらの相手をしたきゃ、それこそ"神"でも呼んでくれないと話にならんからな」


「ちなみに奴ら、妙な動きは見せたか?」


「ああ。シンヤの言った"後半の変な動き"をしてきたよ」


「やっぱりか。で?あいつら、自分達の拠点へといそいそ帰っていっただろ?」


「そうだよ。全く……………ヒントしか与えてくれないのは意地悪だろ。全部教えてくれればいいのに」


「だから、いつも言ってるだろ。固有スキルや魔法に頼りすぎるなと。ましてや、戦争に参加しない俺のを当てにするな」


「うっ…………ごめん」


「まぁ、いい。カグヤ、今回はよく頑張ったな」


「シンヤ……………」


「それで?…………奴ら、一体いくら隠し持ってた?」


「結局、金かよ!情緒もへったくれもねぇな!!」










「おいおい……………」


「これは本当にとんでもないことだぞ」


冒険者ギルドに貼られたとある記事に群がる冒険者達。その記事を見た彼らは皆、驚いた表情を浮かべて開いた口が塞がらなかった。


「だから、俺は言っただろ。"あお鷹爪ようそう"はたまたまじゃねぇ。やられるべくしてやられたってな」


「お前、そんなこと一言も言ってなかったじゃねぇか!それに今回はよりにもよって、あの3軍団レギオンだぞ!それをまとめて相手して全滅させるって……………聞いたことがない」


「とにもかくにも俺達が言えることは1つだな」


最後に発言した冒険者はその後、こう締め括った。


「"黒の系譜"には絶対に手を出しちゃいけねぇ。あいつらが正真正銘、NO.1だ」

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