第323話 全面戦争5

「おいおい……………」


「……………」


「これはまずくねぇか?」


"赤き剣群"、"殲滅連合"、"戦線騎士団"の軍団長レギオンマスター達は後方のとある場所に集まり、そこから戦場を見渡して焦った声を出した。現在、戦場のそこかしこでこの世のものとは思えない光景がいくつも繰り広げられていた。空からは相変わらず、様々な魔法攻撃が彼ら連盟ユニオンの者達に命中し、地上では"黒の系譜"…………特に親クランである"黒天の星"のメンバーの勢いが留まることなく、続いている。並のメンバーでも凄まじい強さを有しているが幹部候補生である"十長とさ"、それから幹部である"十人十色"はその次元が違っていた。彼らの中のたった1人がその気になれば、一体いくつの国が滅びるのだろうか………………そんなことを想像して、軍団長レギオンマスター達は身震いが止まらなかった。


「しかもグリフォンにドラゴン、フェンリルなんか従えて暴れさせてるぞ……………一体どういうことなんだ?」


「以前、どこかで聞いたことがある。確か、あれは従魔部隊とかいう、れっきとした戦力の魔物だ」


「それらを操っているのが例の"魔物使い"リース………そして、"戦執事いくさしつじ"セバスらしいな。最近、ちょくちょく耳にする」


軍団長レギオンマスター達は険しい表情をしながら、戦場を見つめ、何かを考え込んでいた。


「失礼致します!報告があるのですが、よろしいでしょうか?」


とそんな中、"赤き剣群"の幹部が彼らに近付いてくると恐る恐る話しかけてきた。


「こんな時に一体何だ?」


「ただいま入った情報によりますと我が連盟ユニオンの約7割が戦線に復帰することが難しい状況となっており、皆、不安の色が隠せないようです」


「なんとかして回復させられないのか?」


「不可能です」


「何故だ!」


「……………死亡しているからです」


「っ!?」


部下からの報告に"赤き剣群"の軍団長レギオンマスター、レッドは驚き言葉を失った。ところが、残りの2人の軍団長レギオンマスター達はそれについては想定内らしく、深く頷くと噛み締めるようにして言った。


「それについては予想の範囲内だな」


「ああ。喧嘩を売ってきた相手、それも命を狙ってきているのを野放しにはしないだろう。確実に息の根を止めるのはむしろ当然のことだ」


「だ、だがっ!何も命まで取ることはないだろう!お、俺達はお前達と違ってそこまでは……………」


「おい、若いの……………お前、どういうつもりで戦場に来てんだ?」


「っ!?」


"戦線騎士団"の軍団長レギオンマスター、ヘビーは鋭い眼光でレッドを睨み付けながら言った。それに対して少しだけ冷や汗をかいたレッドはおどおどしながら、ヘビーの質問にこう答えた。


「ど、どういうつもりって、そんなの」


「お前らは連盟ユニオンの中じゃ、最も若い軍団レギオンだ。まだ経験値も俺達程じゃない………………だがな、今回のはだ。今更、そんなつもりはなかったとか通らねぇし、経験不足なんていう言い訳も通用しねぇんだよ」


「……………」


「あいつらを見てみろ。攻撃に全く躊躇がない。敵ながら、あっぱれだ」


「……………くっ」


「まぁ、あれはおそらく"黒締"の教育の賜物だろうよ。しかし、あんな若さで一体どれほどの修羅場を潜ったら、それほどの覚悟と精神力が培われるのか甚だ疑問ではあるがな……………とまぁ、色々と説教臭いことを言っちまったが何もお前だけが責任を感じる必要はねぇ。いくらお前発進とはいえ、俺達もそれに乗っかったんだ。なぁ、アレイ?」


「無論だ」


アレイと呼ばれた"殲滅連合"の軍団長レギオンマスターはヘビーの問いかけに表情を変えないまま、答えた。そこからはお互いのことを信頼しているというのが伝わってきた。


「……………すまない。少々、取り乱して情けない姿を見せた」


「気にするな」


「生きていれば、そんなこともあろう」


「ありがとう……………………よし、決めた」


レッドの謝罪にヘビーとアレイは軽く微笑みながら、励ましの言葉を送る。すると、それを聞いたレッドは10秒程、軽く目を瞑って何かを考え込み、次に目を開いた時にこう言った。


「ヘビー、アレイ聞いてくれ。ただ今より、"作戦E"を実行しようと思う」


レッドの顔は覚悟を決めた男のそれになっていた。








―――――――――――――――――――――








「お、ローズか。どうした?」


様々な攻撃を掻い潜り本陣まで辿り着いた敵を撃破しながら、カグヤは通信の魔道具に反応した。たった今、最前線で戦っている第十部隊の部隊長ローズから通信が入ったのだ。


「こちら第十部隊。報告があるわ。なんか敵の一部が不審な動きをしているのよ。多くは相変わらず、こっちに突っ込んでくるんだけど、それに紛れてさりげなく後退している奴らがいるわ」


「………………」


「あれは……………おそらく傘下クランのクランマスター達ね。一体何が目的なのかしら?」


「…………ローズ、報告ありがとな。そして、急で悪いんだが、今から"例の作戦"を実行したいと思う。だから、お前んとこのケープ、レーン、ガルーヴァにも準備させてくれ」


「分かったわ。じゃあ、状況を見てワタシ達は動くわ」


「頼む」


「カグヤ、あなたも頑張ってね」


「ああ。これはちゃんとした取り決めのある軍団戦争レギオン・ウォーとは訳が違う。だから、こういう事態もあるんだろう……………まぁ、骨が折れるが仕方ない。今から全部隊へ伝えるわ」


その後、ローズとの通信を切ったカグヤは全部隊へととある指令を出した。それは皆、事前に打ち合わせで聞いていたものだった為、誰1人として慌てることなく、それぞれが早速動き始めた。そして、一方のカグヤは全部隊への通信が終わるやいなや、遠くからクーフォが駆け寄ってきているのが分かり、彼女を待ち構えた。


「お疲れ様です」


「おぅ。どうした?」


「私の持ち場は終わり、他も大丈夫そうなので来ました………………ところで"例の作戦"を実行するんですか?」


「ああ」


クーフォの質問に神妙な顔で答えたカグヤの表情は次の瞬間には口角が上がり、ニヤッとした笑みを浮かべてこう言った。



「どうやら、シンヤの言っていたことが本当になりそうだ」

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