第306話 面会

「ウィアよ……………大きくなったな」


「ううっ……………お父様」


「慣れない言葉遣いはやめなさい。昔から得意ではなかっただろう?」


「ううっ……………」


「何故に泣く?」


「30年振りに会えたのに………………この国を出た時から、次に帰るのは"ビスト"のみんなや父ちゃんに胸を張れる人になってからだと思ってたのに………………こんな形でなんて………………自分が情けない」


「どんな形であれ、大事な娘の顔を見られたらそれでいい。元気そうで良かった」


「ううっ、父ちゃん」


「だが、そんな大事な娘を泣かせ、こんな辛い想いまでさせている貴様らは一体何者だ?」


「全く……………せっかく親子水入らずの再会を楽しませてやろうとしたのにもういいんですか?」


「こちらの質問に答えよ。貴様らは一体何者で何の目的があって、こんなことをしている?」


「いや、質問が1個増えてるし…………………ああ、もう。答えてやりますよ。ってか、そもそも俺達の素性を言わないと話が進みませんしね」


片目に眼帯をつけたその男はニヤリと笑うと大きな声でこう言った。


「我々はあの巨大な闇組織"闇獣あんじゅう"のメンバーです!」


「何っ!?あのドブねずみ共が関わっているのか!?」


「そして、我々の目的についてですが……………」









―――――――――――――――――――――








「ハーメルン、大丈夫か?」


「ああ。仲間達のおかげでどうにかね。わざわざ、お見舞いに来てくれてありがとう、カグヤ」


「悪いな。本当はすぐにでも行きたかったんだが、あいにくと最近バタバタしていてな」


「例の件だろう?どうやら、また迷惑をかけたようだね。ごめん」


「いや、これはアタシ達が自分達の意思でやっていることだ。気にすんな」


「そう言ってくれて助かるよ。それにしても……………はぁ〜」


「どうしたんだ?」


「いや、情けないなと思って。高ランク冒険者と言われ、世間からはとても強くて凄い人物みたいに捉えられているけど、蓋を開けてみたらこのザマだよ」


「……………」


「それに意気揚々と同盟を持ち掛けたはいいが、ここ連続でその相手に迷惑ばかり掛けてるし……………あの時の僕は随分と調子に乗っていたようだ。まるで自分には弱点が一切なく、無敵になった気でいて。だからこそ、世界最高ランクの冒険者に同盟話を持ち掛けたりなんかしたんだろう………………はぁ〜。あの時の僕をぶん殴ってやりたいよ」


「お前は負い目を感じる必要はないだろ。理由や過程はどうあれ、最終的に同意を示したのはシンヤだ。お前が強い弱いだとかは関係ない。だからこそ、あいつはハーメルンのことを見捨てず、レムロスでお前を守ったんだ」


「………………」


「今はただ怪我のせいで暗い気持ちになっているだけだ。そんなのはいいからこっちのことは気にせず、治療に専念してくれ……………あ、ちなみにもし今後自分を責めたり落ち込んだりしてたら、後でキツいお仕置きが待ってるからな」


「えっ!?」


「言っておくが、お前のクランのメンバーに監視しててもらうから、誤魔化せないぞ?」


「そ、そんなの聞いてないよ!」


「もう話はつけてあるから。じゃあな」


「ち、ちょっと待」


ハーメルンの制止を振り切ってカグヤは部屋を出ていった。後に残されたのは伸ばした手が宙に浮いたままのハーメルン……………と気まずそうに目を逸らす彼のクランの副マスターだけだった。


「あ〜あ、行っちゃった」


「あ、あの……………ハーメルンさん?」


「何?言っておくけど、裏切り者の言葉は僕の耳には一切届かないからね」


「う、裏切り者って……………そんなこと」


「じゃあ、何で敬語なの?後ろめたいことがあるからだよね?」


「いや、それは……………」


「…………ふっ。冗談だよ」


「えっ」


「裏切り者だなんてとんでもない。みんな僕のことを想ってくれているんだから、そんな風に思う訳ないよ」


「っ!?な、なんだよ。怒ったのかと思ってかなり焦ったぞ」


「そんな訳ないじゃん……………ただ、カグヤの思い通りになるのが気に食わなかっただけで」


「ん?それって怒っているんじゃ……………」


「何?」


「い、いや何でもない………………あ、そうだ!"朱鬼しゅき"からこんなものを預かっていたんだった」


「露骨な話題逸らしだね」


「い、いや本当なんだって!!ほら、これ!」


そう言って副クランマスターが差し出したのは封筒だった。気になったハーメルンが早速中を開けてみるとそこには小さく折り畳まれた紙が入っており、それを広げていくと………………


「こ、これはっ!?」


「全く……………相変わらず、粋な計らいをしてくれるね彼らは」


クラン"黒天の星"の全メンバーによる激励の言葉が書かれていた。そして最も目立つ中心部分には短い言葉で"任せろ"という文字があったのだが、唯一それだけには名前がなかった。しかし、ハーメルンはそれを誰が書いたのか瞬時に理解し、と同時に気が付けば彼の瞳からは一筋の涙が流れていたのだった。

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