第4部 親子
第1章 獣人族領
第301話 はぐれ者
「"はぐれ者"って知ってるか?」
その人はそうワシらに言った。その時、この人は一体何を言い出したのだろうと不思議に思ったものだ。いつも破天荒な言動を繰り返してはいたが、その日の彼はいつもとは少し様子が違っていた。
「特定の集団や社会に属さず、孤立した者のことだ。どうやら、そういう奴は決まった家や職業を持たず、あちこち彷徨い歩いていることが多いらしい」
ワシらではなく、というよりもまるでこの世界ではない別のどこかへと想いを馳せるように彼は遠くを見つめて言った。
「ことこれは人だけに限った話ではなく、そういうのは生物・無生物問わず、存在する。そして、そういった者には何か役割のようなものが必ずあると俺は思っている」
そこまで聞いても結局、何が言いたいのか分からず、ワシは周囲を見回した。すると全員が同じようなことを思ったらしく、すぐに目が合ったが誰1人としてその真意が掴めず首を横に振った。そして痺れを切らしたのか、その中の1人が思い切って質問をした。
「結局何が言いたいんですか?」
これに対して、その人は自嘲の笑みを浮かべてこう答えた。
「俺がその"はぐれ者"だってことだ」
「……………は?何を言ってるんです?あなたはこうして集団に属していて、そればかりか俺達を引っ張っていってくれてるじゃないですか」
その人は一瞬だけ悲しそうな表情を浮かべた後、再び遠くを見つめて言った。
「いずれ分かる」
今まで一度も見たことがなかったその悲しげな表情はいつまでも……………………それこそ、こうして歳を重ねた今でも記憶の底に残り続けていた。
―――――――――――――――――――――
「はっ!?い、今寝ておったのか」
どうやら知らぬ間に机に突っ伏して寝ておったらしく、ずり落ちそうになってから、ワシは慌てて飛び起きた。
「危ないところじゃった………………それにしても何故あのような夢を」
遠い昔の出来事が何故か今になって夢に出てきたことに違和感を覚えつつ、ワシは中途半端なままになっている書類の精査に再び取り掛かった。
「全く、シンヤの奴め。次から次に色々とやりよるのぅ」
"コンコンッ"。
「すみません、マリーです。今、お時間よろしいでしょうか?」
「っと、どうしたんじゃ?」
ため息半分、嬉しさ半分で書類を見つめていたワシは不意に聞こえたノックの音に驚きつつ、人気NO.1の受付嬢であるマリーへと返事をした。すると彼女からは予想だにしない答えが返ってきた。
「とある人がギルドマスターにお会いしたいらしく……………」
「言っておったじゃろう?ワシは今、忙しいのじゃ。応接ならば、また日を改めて」
「それが昔の知り合いだから通してくれと聞かなくて………………あっ!?ち、ちょっと待って下さい!!」
マリーの慌てる声と共に勢いよく開かれた扉。
「久しぶりだな、ブロン」
「っ!?あ、あなたはっ!?」
「融通が効かないのは今も変わらねぇな」
そこにいたのはつい今しがた夢に出てきた………………あの人だった。
―――――――――――――――――――――
フリーダムのクランハウス内の会議室。現在、その場には重苦しい空気が立ち込めていた。シンヤと幹部全員が揃いも揃って険しい表情をしており、皆黙り込んで俯いていた。しかし、流石にずっとそのままでいる訳にはいかないと感じたシンヤは報告者であるドルツへ向けて口を開いた。
「今、何て言った?」
「だから、部下から先程報告があった。俺達が魔族領へと行っている間に………………」
そこまで言ってから軽く目を瞑ったドルツは少し間を空けて、こう言った。
「ラゴン夫妻が殺された。そして昨日、ハーメルンが重傷を負い、"赤虎"ウィア・ベンガルが何者かに連れ去られた」
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