第302話 闇獣の血
「おい!これを解けよ!」
揺れる馬車の中に鎖付きの手錠で繋がれたウィアは叫んだ。その表情は非常に険しくなっており、一刻も早くその場所から出たいという意志が伺える。
「おいおい。勘弁してくれよ。さっきから、ギャアギャアと………………噂に違わぬお転婆ぶりだな」
「おい。それは一体いつの噂だ?今では"赤虎"ウィアというSSランク冒険者としての名の方が巷では有名だ」
「おっ。そうだったな」
男は下品な笑いを浮かべつつ、ウィアを見つめる。その後、舌舐めずりをしながら、持っていたナイフを彼女へと向けた。
「向こうに着くまでの辛抱だ。だから、もうちょっとだけ大人しくしていてくれないか、姫さんよぉ」
「…………そこまで知っているってことはお前達、只者じゃないな?それとも誰かの入れ知恵か?答えろ!お前達は一体何者で誰の差し金なんだ!」
「ゲハハハハッ!知りたいか?知りたいよな?」
男はウィアの問いに対して、これまでで一番のバカ笑いをし、得意気な顔をしてこう答えた。
「そんじゃ、特別に教えてやる。なんせ俺達に狙われて生きていた者はいないからな………………なんと俺達はあの泣く子も黙る巨大組織"
「"
「いいねぇ〜その表情……………そして肝心のお前を攫うよう頼んできた者だが………………」
その後に続く言葉を聞いたウィアは愕然とし、力が抜けたのか腕がだらんと下がった。
「何だと…………………」
その際、手錠と鎖が擦れ重たい音が周囲へと響き渡ったのだった。
―――――――――――――――――――――
「"
「で?そいつらがウィアを攫ったと?」
「どうやら、そうらしい。たまたま一緒にいたハーメルンが彼女を守る為に抵抗したそうだ。幸い、命に別状はなかったが血だらけのまま魔道具で仲間を呼んでクランハウスへと運び込まれた時は周りが一時パニック状態だったらしい」
「そりゃSSランク冒険者だからな。そんな傷を負うこともそうそうないだろう。で?敵の目的は?ウィアを攫って一体どうするんだ?」
「それはまだ不明だが、敵が去り際に気になることを言っていたようだ。"笛吹きも一緒にいたのは手間が省けて、ちょうどいい。ラゴン夫妻と笛吹き……………これで2人は始末した"…………………と」
「…………………」
「何の因果関係があるかは分からない。ただ、今回の件に全く無関係とは言えないだろう」
「つまり敵はラゴン夫妻とハーメルンの暗殺、そしてウィアの誘拐………………最低でもこの3つの依頼を引き受けているってことか。なるほど。これだけ大口の依頼ならば、舞い上がってしまい、そんな独り言を言ってしまうのも頷ける」
「問題は"獣の
「そこら辺はおいおい考えるとして………………まぁ、何にせよ、敵が舞い上がってくれていて助かった。そのおかげでハーメルンの生存確認を怠ったんだからな。そして、こうして俺達に情報が回ってくると」
「……………シンヤ、一体どうするつもりだ?」
ドルツの問いに対して、シンヤは会議室をぐるりと見回す。そこには頼もしい幹部達がシンヤを信じて答えを待っていた。
「無論、奴らを徹底的に叩き潰し、ウィアを奪還する。ハーメルンは俺達の仲間だ。そいつをやられて、黙っておくことはできない。ウィアに関してはまだ付き合いが浅く、同盟関係ではないが、ハーメルンの守ろうとした者だ。ただ奴らを潰すだけでは意味がない。ウィアを無事連れ帰ってこそ、ハーメルンは本当の意味で救われたことになるだろう」
「本当にやるんだな?」
「ああ。お前らもそれでいいか?」
「シンヤさんがそうご決断されたのなら」
「私は最初から、シンヤさんに付き従うつもりでしてよ」
「巨大な闇組織……………燃えてきたぜ」
「極悪非道な組織、許さない」
「ノエ先輩はアスターロ教のこともありますもんね……………あ、私もそのゴミクズ共を殲滅しますよ?」
「随分な物言いじゃな、アスカ。まぁ、妾も久々に胸糞悪くなっておるが」
「とっとと敵を潰して、ウィアを連れ帰ろう」
「ラミュラの言う通りデス。ウィアとは一緒にバーベキューをする約束をしていたんデス。絶対に連れ帰るデス」
「ボクもなの……………ウィアはボクにも気さくに話し掛けてくれたの。だから、バーベキューは絶対したいの」
「この間もバーベキューしてたよね?………………まぁ、いいや。僕も2人と同じでまだ付き合いは浅いけど、ウィアを大切な友人だと思ってる」
「当然ね。もちろん、ワタシもよ」
「………………っと、俺もシンヤに従うぜ」
最後に今まで報告をしていたドルツも賛同の意を示したところでシンヤは頷いた。そして数秒後、思わず全員が意見を変えてしまうような言葉をシンヤは発した。
「みんなありがとう。そして、先に謝っておく……………すまない。今回は俺1人で奴らを追う。お前らはここで待機しててくれ」
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